第63話 誘う女
文字数 847文字
他人の空似にしちゃ、親父そっくりだった。
「ちっ、いないな」
昔から逃げ足は速かったからな。
戻るとするか。
「キョンちゃん、今日も可愛いね~」
なんだ? キョン子が男に絡まれてるぞ。
「あっ、先輩~」
キョン子が俺に向かって手を振ると、男は離れていった。
「先輩、すごい勢いで飛び出していったから、心配しましたよ~」
「いや、それよりもあのおっちゃんは誰だ?」
「あの人は最近店に来だしたお客さんっすよ。なんかボク気に入られちゃって」
あんな客いたかな?
「お前はナリがナリだから、パパ活に見えるぞ」
「ボクがそんなことするわけないじゃないっすか~」
年齢差の離れてる男女が歩いていたら、本当のパパ以外に妥当な推理が働かないな。
「でも先輩。昨今のパパ活問題は、ボクも気になるんスよ~」
見た目ギャルのキョン子が言うと、ギャグにしか聞こえないな。
「売春防止法で罰則規定が無いって思い込んでる人達がいますけど、ちゃんと条文すべてに目を通してほしいっすね~」
キョン子の言いたいことはこうだろう。第三条では売春が禁止されているだけで、罰則規定がない。ところが第五条を読むと、勧誘・周旋をした場合の罰則規定が、明確に書かれている。
「そうだな。ネットでパパ活相手を募集したりすると、その女がとっ捕まる」
弱みを握っておどしたり、嘘八百で金をせしめたら、恐喝罪・詐欺罪が適用される。
「ナイスミドルな方々もいますが、生きづらい時代ですよね~」
あいつらもメチャしすぎたら、当然罰せられる。
「男も女も若い子が好きだと思われがちですが、ちゃんと年上好きも一定数いるんすよ~」
ジェロントフィリアかってくらい年が離れてる男女も見るが、そんなのはファンタジーだ。
「ところでさ。さっきビデオを流してたとき、お前なんか変だったぞ?」
パパ活よりもそっちが気になる。
「あ、あの。え~と、その・・・」
よくしどろもどろになるな、コイツは。
(先輩のお父さんを見たら、動揺するに決まってるじゃないですか)