第108話 神出鬼没
文字数 753文字
噂を信じちゃいけないが、噂をすれば影が差す。
「いい噂なら驚かなくても」
マリアはメシヤのことを言っているのだが、鈍いというかなんというか。
「誰かが自分のことを悪く言っているなんてのを気にしすぎると、病気になるぜ」
どんな優れた人物であっても、悪口のターゲットになりうる。悪口を言い出した人物がいなくなると、その人物にも矛先が向かう。自分だけが悪く言われているということは、決してない。
「部屋の中から笑い声が聞こえていて、入るとぴたっと止むことがありますわ」
それは悪漢がレマに怯えていたのだろう。
「そういうのが気になる人ハ、自ら輪に入っていくことだヨ」
面と向かって悪く言うのは、さすがに躊躇われる。
「1・2回、言葉の事故があったくらいで避けるのもなんだし、勘違いだったってこともあるしさ」
ハッキリ喋ることと言葉の選択の重要さが、メシヤは身に沁みている。
言葉が現象を引き寄せるとは巷間よく言われることだが、見聞きして気になった事柄にすぐさま遭遇したり、たまたま思い出した人物を直後TVで見掛けたりすることはわりかし起こる。スマホが声を拾っているという都市伝説は抜きにしても、それ以上の引力が言葉にはある。
「神出鬼没と言えばさ、オブライエン博士って大西洋のど真ん中で暮らしてるんでしょ? その割にはしょっちゅう日本に来るわよね」
研究に没頭したいため、大西洋に浮かぶ孤島・ガリゼンダの塔に缶詰になっている。
(言ってもいいものかしら・・・)
「オブライエン博士のことだから、どこでもドアをすでに発明してるんじゃないかな」
空間と空間を繋げることも関門だが、プライバシーの保護が大きな障壁になる。
「部屋の扉にもっとピンク色が使われても良さそうだけどネ」