第9話 文字だけアニメ

文字数 1,184文字

「その昔エヴァで音だけアニメってあったんだけどさ」
 巷で噂のエピソードである。

「ドラマCDのやつだネ!」
 アニヲタのエリが知らない訳はない。

「なんかマニアックそうな話ね」
 アスカとマリアはどうしてもかぶる。

「アニメはあまり詳しくないが、動画で見たことがある。動画と言っても音だけだがな」
 音だけのゲームもかつてあった。

「声優さんの口で作る効果音が、神業でしたわ!」
 全然これで成立していた。むしろこの口での効果音シリーズをもっと聞きたいくらいだ。

「アニメのほうが視聴者の反響もいいし、文字だけの小説や音だけのメディアは後手に回りそうだよね。でも話を作る自由度は絶対に文字だけ、音だけのほうが上なんだよ」
 アニメなら実際に絵を作らないといけないが、そこでこぼれ落ちる表現はどうしても出て来る。音だけ、文字だけなら、より奇想天外な事象を表現できる。

「ワタシもサ、ドラマCDって何本も持ってるんだヨ。かさばるし処分したい衝動に駆られるんだけド、なんか残しておきたくなる魅力があってネ」
 データで残しておくのと何が違うのかは、いま視聴不可能になっている作品群を思い起こして欲しい。

「まさかそれでLL教室に来たんじゃないでしょうね」
 ダンス甲子園にいつでも出られるメンバーが揃っている。

「別にここじゃなくても良かったんだけど、静かだしさ」
 メシヤがテープレコーダーを取り出した。

「また懐かしいブツだな」
 メシヤのは市販では見掛けないカラーリングだ。おそらく自作だろう。ラジオも聴ける。

「分かりますわ。テープのほうが生感があります。いい緊張感がありますし」
 裁紅谷姉妹もボイスレコーダーを使うが、テープレコーダーのほうが取り回しは良い。

「五人が録音したのを配信も出来るよ。そんな作品のありかたもいいよね」
 小説家が機械音声をあやつって、自作を発表する日も来るか。

「シナリオはあるノ?」
 エリは乗り気だ。

「これさ」
 脚本家・メシヤ。CV:保志総一朗

「なんか聞いたことあるような話ね」
 メシヤが書く話なので、北伊勢高校の日常のような話になってしまう。
 マリアの声に近いのは、竹達彩奈さんだ。

「俺がこれをやるのか?」
 イエスの声のイメージは、稲田徹氏だ。

「わたくしもけっこうパートがありますわ」
 レマは吉住梢さんだ。

「ワ、ワタシハ?」
 エリに合う声が、パッと思い浮かばない。甲高い外国訛りの元気少女といえば・・・?

 家にオーディオ機器すらもなくなってしまった現代だが、こうした遊びを昔はしたものだ。


~~~

「けっこう力作じゃない!」
 なかなかの仕上がりになった。

「改善点を見つけて次に活かせば、エピソードも濃密になっていきますわ」
 レマもまんざらではない。


「お前たち! なにやってるんだ!」
 教頭がカンカンになって怒鳴り込んできた。

「エ、これもしかして流れてタ?」
 犯人は、この中にいる。


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登場人物紹介

奇特人間大賞・藤原メシヤ。

彼の元には、いつもハチャメチャが押し寄せてくる。

お転婆娘・安倍マリア。

ギャルであり、敬虔なシスター。

メシヤを止められるのは、マリアだけ。

江戸時代から脈々と続く、大手ゼネコンの御曹司、十九川イエス。

メシヤにとって無くてはならない、心の友。

イスラエルからの留学生・裁紅谷エリ(姉)。小柄だがフィジカルお化け。最初は身分を隠していたが・・・

同・裁紅谷レマ(妹)。エリは双子の姉。落ち着いているように見えるが、9マイル先のターゲットを錆びついたマシンガンで撃ち抜ける。

【東洋】あずまひろし。北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーにて勤務。ろくに学校も出ていないが、父親のスパルタ教育により、体だけは頑丈。後輩・キョン子に、なぜかなつかれている。

【西本願寺京子】京都の名門・西本願寺家の長女。学年的にはメシヤたちと同じである。躾の厳しい実家を飛び出し、北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーで勤務する。職場の先輩、東洋《あずまひろし》に、キョン子と呼ばれる。どうやらヒロシのことは以前から知っているようだが・・・。

【科納ニカル】かのにかる。科納エレクトロニクスの令嬢。子供向け番組『コンピューター・ニカルちゃん』で一世を風靡。ロンドンインペリアルカレッジを首席で卒業後は、神籬探偵事務所で助手を務めている。

【奈保レオン】なぽれおん。年齢、星籍不詳。メシヤと同じ1年G組に席を並べる。数学、歴史が得意。破天荒(誤用ではない)なメシヤの、良き理解者。

【ジェニー・オブライエン】人類史上最高峰の知性と評される宇宙物理学者。メシヤと日本贔屓。頭脳労働者のためか、結構な大食漢。研究所は大西洋の孤島だが、北伊勢市内にもよく出没する。

【必勝ミドル】ひちかたみどる。雲水翁の内弟子。凡庸な12歳であったが、五大所山の修行でメキメキと腕を上げる。先手必勝をモットーとする。

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