第94話 ホーソン実験
文字数 864文字
「神籬さんはこのあたりの推理になると、とんと駄目です」
ニカルは、北伊勢市のアミューズメントパークに来ている。
サッカーゲームに興じていると、対面に挑戦者があらわれた。
ところが、ものの2~3分でニカルには敵わないと踏んだのか、自陣へドリブルを開始し、オウンゴールを連発して立ち去っていった。
「ゲーマーの風上にもおけませんね」
幼少時、ニカルはゲーム機を買ってもらえなかったので、遅れてゲームにハマった。ファミコンを買ってもらえなかった子供が、凄腕プログラマーの道を辿るのと似ている。
「先輩、珍しいお客さんっすね」
キョン子がヒロシに耳打ちする。
「別にいまどき珍しくないだろ。パチンコだって打ちに来る若い女子もいるぞ」
そういうお前はどうなんだよと言わんばかりのヒロシである。
「それにさっきの見てましたか? バンダナ巻いたお兄さんをくっちゃめちゃにやっつけてましたよ」
ここのところ、《めちゃくちゃ》が良い意味での強調表現に使われるので、悪い意味の強調表現に《くっちゃめちゃ》をプッシュしたい。
「くんのろじにしてたよな」
スネ夫の声で槍を突き上げたくなる掛け声だ。
(さっきから聞こえてますよ・・・)
それでも集中力を絶やさないのは流石だ。
「でもさ、お前も家にいりゃ何不自由ない暮らしが待ってるってのに、奇特なやつだよな」
「先輩は分かって無いっすねえ。ホーソン実験によると、人がその組織に居たい動機は報酬もさることながら、人間関係が良好・居心地がいいことのほうが上回るんすよ」
『お金よりも大事だ』というと途端に説教くさくて嘘っぽくなってしまうが、その良好な関係がのちのち大きなマネーを動かすことになるとしたら、さてどうだろうか。
「それくらい俺でも分かるぜ。上手い話ってのは最初だけなんだよ。それで釣られて飛びつくと、身ぐるみ剥がされて
「え・・・?」
店員の会話を聞いて振り返るニカル。
目線を感じて持ち場に戻るヒロシとキョン子。
(神籬・・・さん?)