第27話 弱音の黙示録

文字数 889文字

「結局プロミネンスウイルスとはなんだったのでしょうね」
 ニカルが糸のほつれたパーカーのポケットを縫い直している。水色だからドラえもんみたいだぞ。ま、器用な奴だ。

「俺の中では答えは出てるぜ」
 意外な反応だったのか、針をちくっとやらかした。なんと古典的な。

「え、え、ぜひ教えてください!」
 ニカルが両手を握り合わせて懇願した。

「666の獣だよ」
 ヨハネの黙示録に登場する、あまりにも有名なビーストだ。だが、その正体は長らくのあいだ謎とされてきた。

「獣ですか。てっきり悪魔的独裁者かなにかかと思っていました」
 各時代に、獣だったのではないかと言われる人物は、何名か挙げられている。

「ぴったりじゃないか。ここまで世界を大混乱に陥れた存在が、かつてあったか?」
 一筋縄ではいかないのが、こいつのせいで炙り出された悪の存在も、いたるところで噴出したという点だ。

「666は369とか567とも数字を変えられたりしますね。足して18なのは同じですし、正反対の概念の弥勒菩薩とも読めます」
 別世界での呼称、コロナとも読める。

「これだけじゃ気付かなかったんだが、『四十二か月の間、活動する権威が与えられた』って箇所があるだろ」
 リアル世界では2019年12月にコロナウイルスの第1例目が確認されて、我が国で5類に移行されたのが2023年の5月である。数えてみてくれ。ちょうど42ヶ月になるはずだ。ニカルは愕然としている。

「わたしは宗教にほどよい距離をとっていたいという立場なのですが、神秘的なものを科学的に論じることはできると思っています。否定するための論理では無く、信じるために、です」
 神を信じるだけで非科学的の烙印を押されがちだが、過去の天才科学者たちの信心深さを見れば、現代のほうが異常だとすぐわかる。ニュートンのことはどう説明するんだ?



 〈ここに、聖なる者たちの忍耐と信仰が必要である〉

  不義をなす者はいよいよ不義をなし
  不浄なる者はいよいよ不浄をなし
  義なる者はいよいよ義をおこなひ
  清き者はいよいよ清くすべし

  ()よ、われ報をもて速かに至らん
  各人の行爲に隨ひて之を與ふべし


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登場人物紹介

奇特人間大賞・藤原メシヤ。

彼の元には、いつもハチャメチャが押し寄せてくる。

お転婆娘・安倍マリア。

ギャルであり、敬虔なシスター。

メシヤを止められるのは、マリアだけ。

江戸時代から脈々と続く、大手ゼネコンの御曹司、十九川イエス。

メシヤにとって無くてはならない、心の友。

イスラエルからの留学生・裁紅谷エリ(姉)。小柄だがフィジカルお化け。最初は身分を隠していたが・・・

同・裁紅谷レマ(妹)。エリは双子の姉。落ち着いているように見えるが、9マイル先のターゲットを錆びついたマシンガンで撃ち抜ける。

【東洋】あずまひろし。北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーにて勤務。ろくに学校も出ていないが、父親のスパルタ教育により、体だけは頑丈。後輩・キョン子に、なぜかなつかれている。

【西本願寺京子】京都の名門・西本願寺家の長女。学年的にはメシヤたちと同じである。躾の厳しい実家を飛び出し、北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーで勤務する。職場の先輩、東洋《あずまひろし》に、キョン子と呼ばれる。どうやらヒロシのことは以前から知っているようだが・・・。

【科納ニカル】かのにかる。科納エレクトロニクスの令嬢。子供向け番組『コンピューター・ニカルちゃん』で一世を風靡。ロンドンインペリアルカレッジを首席で卒業後は、神籬探偵事務所で助手を務めている。

【奈保レオン】なぽれおん。年齢、星籍不詳。メシヤと同じ1年G組に席を並べる。数学、歴史が得意。破天荒(誤用ではない)なメシヤの、良き理解者。

【ジェニー・オブライエン】人類史上最高峰の知性と評される宇宙物理学者。メシヤと日本贔屓。頭脳労働者のためか、結構な大食漢。研究所は大西洋の孤島だが、北伊勢市内にもよく出没する。

【必勝ミドル】ひちかたみどる。雲水翁の内弟子。凡庸な12歳であったが、五大所山の修行でメキメキと腕を上げる。先手必勝をモットーとする。

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