第83話 最初に好きになったのは、声
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鍛えられた背中と、整えられた指先を併せ持つ。
「急に静かになるんじゃないわよ!」
時々黙りがちになる癖がある。
「考えるときに喋ってる人って、いなくなくなくない?」
コレよくない? よくないコレ?
よくなくなくなくなくセイ イェーッ
「着替えのシャツが二枚は必要だな」
まだまだ残暑が厳しい。
「全館空調が整備されてるとはいえ、外に出たりすると汗だくだよ」
校舎のような建物には、個別空調よりもセントラル空調が適している。
「汗っかきなのはしょうがないけド、汗臭いのは生活習慣の問題だからネ」
汗自体は臭くなくても、濡れたシャツを放置すると、悪臭を放つ。
「昨日のドイツ戦を観たら、興奮するのも仕方ないわよね」
昼休みにグラウンドでサッカーに興じていた。
「メシヤさまとイエスさまの声が、よく届いていましたわ」
二人とも、声の通りが良い。
「メシヤってぼそぼそ喋るときもあるけド、基本声が大きいヨ」
意外と肺活量がある。
「カラオケもそうだけど、大きな声を出すのってすごく重要だと思うんだよね。なんかさ、たまってたものを吐き出せるというか」
取り入れるためには、出されなければならない。
「バイト先でも顕著なんだけど、責任のあるポジションの人って、発声が他の人と違うのよね」
周囲でも観察してみよう。
「そうだな。いくら能力があっても、何を言ってるか分かりづらい喋り方をする人物は、どうしても裏方に回りがちだ」
イエスの職場は現場仕事だけに、やたらと声のデカい男の集団である。
「声のデカい人間の意見だけが通るなんて悪く言われますが、あながち間違っていませんわ」
「あたしはエリちゃんの声が好きかな」
エリのモデルは、Angel voiceとおもしろキャラで人気を博した、亀井絵里である。