第115話 すばらしいY・O・G・A
文字数 768文字
「コーラー! いくらあなたといえど、女性の部屋にノック無しで入るだなんて!」
いつも冷静なジェニーが慌てている。
「だってここは共有スペースじゃないか」
バツの悪そうなオブライエン女史。
「別に隠してるわけじゃ無いけど、見られると恥ずかしいわ」
オブライエンは顔ヨガの最中だった。ブックスタンドに指南書が開かれている。
「ああ、ヨガは心身の統一に最適だよね」
コーラーも軟体動物的やわらかさを持っている。
「そうなの。考えが行き詰まったときとか、頭と躰がすごくほぐれる感じがするわ」
ジェニーも高難度のポーズが出来るほどの達人だ。
「さっきのは顔ヨガだったみたいだけど?」
「コーラーには分からないでしょうけど、いかにシワを作らないかで、女性は苦心惨憺としているものなのよ」
安易に美容について検索すると、業者の格好のターゲットになる。
「ジェンが? まったく必要ないでしょ」
両手を広げ、なぜ?と首を振る。
「ありがとうね。世の女性陣がもっとも興味のあるのは、法令線と目の隈じゃないかしら」
ここには出て来ないが、垂れ下がるベクトルを逆転する逆立ちが、最大級に効果がある。
「それは違いないね」
同じ顔のキャラでも、法令線を描くだけで、別キャラとして成立する。
「それでね、【ほ】の口をするといいのよ。法令線が縦に伸びるし、目も見開いて隈解消に適してるわ」
早速鏡の前でやってみよう。
「あのジェニーに一体なにが起きたのかと僕も戸惑ったよ」
「そんなに変な顔だったかしら」
オブライエンでも顔を赤くすることがあるとは、貴重な光景だ。
「うん。ムンクの叫びみたいだったよ」
法令線が出来はじめたら、そんな心情になるのかも知れない。
「悲劇の名画が、ほほえましく見えてくるわね」
憂鬱など吹き飛ばして、君にも元気を出して欲しい。