第67話 労基せよ
文字数 954文字
実家が太いキョン子だが、その裏付けは数字に表れている。
「人財は豊富だと思うが、実感としては確かにそうだな」
自由な発想、和の精神、美味いもの、自然美、そうした良さが、見事に殺されてしまっている。
「ボクが生まれた頃には、もうその傾向が顕著でしたよ。昔の映像とか見ると、羨ましいなあって」
「原因は色々あるが、どれかひとつだけあげるなら、派遣法改悪だな」
何度してるんだろうな、このやり取りは。いくら言っても変わらない。
「そのバトル、TVでもネットでもしょっちゅう見ますよ!」
だまくらかして特定個人の懐があたたまると、日本経済は冷え込む。経済力があるとは、国家全体を指す言葉であって欲しい。
「パワハラが話題になったばかりですが、このあたりの親玉がぬくぬくされていますね」
あまり人の好き嫌いが無いキョン子でも、あいつには虫酸が走るんだろうな。
「そもそも派遣法なんてのが存在してること自体、おかしいんだ。ほれ、いつもの六法全書を開いてみろ」
パチンコ店の休憩室に、似つかわしくない代物ではある。
「あ、これですね。労働基準法第六条」
(中間搾取の排除)
【何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。】
「まさにあの人のやってることに真っ向から対立する条文ですね!」
「『法律に基づいて許される場合の外』ってとこを突いたつもりなんだろうな」
こんなことで日本経済が浮上するハズがない。
「ですけど、その派遣法ってのを見ると、いきなりハテナって止まっちゃいますね」
そらそうだろうな。第一条(目的)に、『派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする』ってのがてんでデタラメだ。いまの現状でまったく目的を果たせていない。
「う~ん。入り組んでいるように見えて、コトは案外単純じゃないんすかね?」
「そうだな。派遣法を廃止する法律を立てるか、新規の法律で派遣法を廃止する規定を盛り込むかすれば良い」
コトは単純だが、これをひっくり返そうとすれば、相当なPower to the peopleが必要になるぞ。
「先輩、立候補しないんすか?」
バカ言ってんじゃないよ、まったく。俺みたいなはみだしもんが、関わっていい世界じゃ無い。