第89話 本人訴訟
文字数 574文字
こんな切り口の10代がいるのか?
「『この件に関しては、弁護士に任せています』だなんて、政治家失格っすよ」
立法府の人間がそんなことでどうするんだろうな。
「『法的措置を検討する』ってやつもな」
自分の言葉で戦えないものかねえ。
「失礼を承知で申し上げますが」
ちょこんと右手を挙げるキョンコ。
「先輩が法律に詳しいのって、裁判沙汰に何回もなってるからですか?」
失礼極まりないな。
「口で言っても聞かないやつが多いからな」
殴るって意味じゃ無いぞ。
「さっきの話で言えば、『法的措置を検討する』って言葉に屈しちゃ駄目なんすよね。自分は何も間違っていないとの信念があれば、そんな稚拙な恫喝には断固として立ち向かわないと」
勇ましいな。
「裁判は金が掛かるってのでまず諦めるよな。だが、本人訴訟をする人らもまあまあいるんだぜ」
何を隠そう、俺がそうだ。
「裁判官が批判に晒されることもあるが、彼らは本当に優秀なんだ。訴訟相手が悪事の限りを尽くしてるのに飄々としていたとしても、こちらが緻密に法律構成を立てれば、ちゃんと裁いてくれるもんさ」
うんうんとキョンコが頷いている。
「ところで先輩。ボクの取っておきのシガールが無くなってたんですが、何か知りませんか?」
急に用事を思い出した。いつもと違う電車に乗って、どこか遠くへ行こう。