第111話 千両役者

文字数 699文字

「ボクも映画はよく観てたほうなんスけど」
 休憩室のブラウン管は、まだ現役だ。

「なんか迫力が欠けるんスよね~」
 キョン子は若手よりベテラン俳優の主演作を好んでいる。

「グリーンバックではなあ」
 彼らの責任では無いが、空想だけで演じるには限界がある。

「70年代・80年代の映画から伝わってくる空気感が、明らかに違うんスよね」
 テーマも重々しいのが多かったからな。

「酷なことをいうようだが、『これはこの人じゃ無いと出来ない』ってのがあまり無いのかも知れんな」
 自分にしかないものとは、何だろう?

「それもあってか、ボクはもっぱらアクション映画を観てますよ」
 越苦春到(えつくはると)はいまどき珍しく、ノースタントでアクションをこなす。

「和製ジャッキー、春到か」
 武田鉄矢やウッチャンじゃないぞ。

「どうです? すごいでしょ、この動き」
 画面を所狭しと移動する春到。俺とやったら・・・五分かな?

「俳優がもともと何を指してたか、知らない人も多いんだろうな」
「え、もともととかあるんスか?」
 左目で画面を見て右目でこちらを見ている。カメレオンかよ。

「俳優はな、〔わざおぎ〕って呼ばれてたんだ。身振り手振りで神様を招く存在だったんだよ」
 アメノウズメノミコトが踊り狂ってアマテラスを(おび)き出した神話は有名だな。

「動きで神様を・・・」
 そう考えると、普段の何気ない動作も疎かに出来ないな。

「キョン子も所作のガサツなところがあるから気をつけないとな」
「先輩、ボクのお兄ちゃんみたいなことを言うじゃないスか!」
 へえ。兄弟がいたんだ。

「魂がこもった演技だよ、春到は」
「ホント! 彼こそ大和男子(やまとおのこ)ですね!」
 春到は画面の向こうで、雄叫びを上げた。





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登場人物紹介

奇特人間大賞・藤原メシヤ。

彼の元には、いつもハチャメチャが押し寄せてくる。

お転婆娘・安倍マリア。

ギャルであり、敬虔なシスター。

メシヤを止められるのは、マリアだけ。

江戸時代から脈々と続く、大手ゼネコンの御曹司、十九川イエス。

メシヤにとって無くてはならない、心の友。

イスラエルからの留学生・裁紅谷エリ(姉)。小柄だがフィジカルお化け。最初は身分を隠していたが・・・

同・裁紅谷レマ(妹)。エリは双子の姉。落ち着いているように見えるが、9マイル先のターゲットを錆びついたマシンガンで撃ち抜ける。

【東洋】あずまひろし。北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーにて勤務。ろくに学校も出ていないが、父親のスパルタ教育により、体だけは頑丈。後輩・キョン子に、なぜかなつかれている。

【西本願寺京子】京都の名門・西本願寺家の長女。学年的にはメシヤたちと同じである。躾の厳しい実家を飛び出し、北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーで勤務する。職場の先輩、東洋《あずまひろし》に、キョン子と呼ばれる。どうやらヒロシのことは以前から知っているようだが・・・。

【科納ニカル】かのにかる。科納エレクトロニクスの令嬢。子供向け番組『コンピューター・ニカルちゃん』で一世を風靡。ロンドンインペリアルカレッジを首席で卒業後は、神籬探偵事務所で助手を務めている。

【奈保レオン】なぽれおん。年齢、星籍不詳。メシヤと同じ1年G組に席を並べる。数学、歴史が得意。破天荒(誤用ではない)なメシヤの、良き理解者。

【ジェニー・オブライエン】人類史上最高峰の知性と評される宇宙物理学者。メシヤと日本贔屓。頭脳労働者のためか、結構な大食漢。研究所は大西洋の孤島だが、北伊勢市内にもよく出没する。

【必勝ミドル】ひちかたみどる。雲水翁の内弟子。凡庸な12歳であったが、五大所山の修行でメキメキと腕を上げる。先手必勝をモットーとする。

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