第111話 千両役者
文字数 699文字
休憩室のブラウン管は、まだ現役だ。
「なんか迫力が欠けるんスよね~」
キョン子は若手よりベテラン俳優の主演作を好んでいる。
「グリーンバックではなあ」
彼らの責任では無いが、空想だけで演じるには限界がある。
「70年代・80年代の映画から伝わってくる空気感が、明らかに違うんスよね」
テーマも重々しいのが多かったからな。
「酷なことをいうようだが、『これはこの人じゃ無いと出来ない』ってのがあまり無いのかも知れんな」
自分にしかないものとは、何だろう?
「それもあってか、ボクはもっぱらアクション映画を観てますよ」
「和製ジャッキー、春到か」
武田鉄矢やウッチャンじゃないぞ。
「どうです? すごいでしょ、この動き」
画面を所狭しと移動する春到。俺とやったら・・・五分かな?
「俳優がもともと何を指してたか、知らない人も多いんだろうな」
「え、もともととかあるんスか?」
左目で画面を見て右目でこちらを見ている。カメレオンかよ。
「俳優はな、〔わざおぎ〕って呼ばれてたんだ。身振り手振りで神様を招く存在だったんだよ」
アメノウズメノミコトが踊り狂ってアマテラスを
「動きで神様を・・・」
そう考えると、普段の何気ない動作も疎かに出来ないな。
「キョン子も所作のガサツなところがあるから気をつけないとな」
「先輩、ボクのお兄ちゃんみたいなことを言うじゃないスか!」
へえ。兄弟がいたんだ。
「魂がこもった演技だよ、春到は」
「ホント! 彼こそ
春到は画面の向こうで、雄叫びを上げた。