第73話 魂に火を点けろ
文字数 1,193文字
キョン子が諭吉を数えている。なかなか手際がいいな。
「お金の勘定なら得意っスよ」
こいつ、数学が好きだったな。会計とはまた別の能力の気がするが。
「数が合わなかったら、責任取れよ」
こいつはちょっと、いじめたくなる風貌をしている。
「いじめられても叩かれても、しぶとく生きたいっスね」
どんな高級セラピーもあてにならない時代に、あと何があるだろう。
「パチンコ人気も影が差してきたが、ウチは黒字をキープしてるな」
果たして日本人にとって、良いことなのかどうか分からないが。
「遊ぶときは遊ぶ、働くときは働く。どちらかだけでも駄目なんだと思いますよ」
確かに、堅苦しいことしか言わないやつとは、一緒にいたくないな。
「先輩。黒字で思い出したんですが、日本人は名前を赤いペンで書くことを極端に嫌がりますね」
「そりゃそうだろう。赤字なんて縁起でもないからな」
俺も年配の人に赤で名前を書こうとして、止められたことが何度もある。
「ところがですよ。日本の名だたる大企業を思い出してくださいよ。トヨタにドコモにカルビー、日本コカコーラもロゴは赤字ですよ」
どこも業績好調なビッグネームばかりだな。
「多分赤字と言われるのを忌避したんでしょうが、赤バックに白抜き文字とかの会社も多いですね」
こいつ、よく見てるな。そんなもん全然気にならなかったぞ。
「こんな話を聞いたことがある。縁起が悪いとされるようなものには秘密があって、そういう迷信じみたことを言って一般人を遠ざけるようにしているものが結構あるらしいぞ。北枕で寝るのとかな」
北枕は地球の磁場に沿って寝ることになるから、疲労回復効果があるなんていう人物もいるが、スピリチュアルで一蹴されそうな話ではある。
「そんな馬鹿馬鹿しいって人もいるでしょうが、トヨタやドコモが赤文字を使ってあれだけの業績を上げてるってのは、迷信では片付けられないですよ」
さすが西本願寺の娘だけのことはある。
「42とか49とか13とか666とか、そういうのにもパワーがあるのかもな」
コインパーキングの4番は、一番最後に埋まりがちだ。
「いや、ボクは数字はめちゃめちゃ気にするんスよ。なんか頭から離れなくて。いま先輩が言ったナンバーは避けますね」
四十九日はどうするんだよ。
数字が好きなやつって、ひとつひとつのナンバーにそれぞれのイメージがあるというが、キョン子も何か見えるんだろうな。
「777(スリーセブン)は確かに気分が上がるよな。あれは一体なんなんだろう」
自分が生まれる遙か前から、人類が共通して持っている感覚とでも言うのかな。
「777は赤色以外認め無いっス。あれが青だったら、ギャンブル感もラッキー感も失せます」
「だな。ラッキーセブンは世界共通かもな」
(こんなとこでくすぶってないで、国境をどこまでも越えていってほしいです。ボクの命も風前の灯なんですから)