第66話 段取りはランドセルから始まる
文字数 1,129文字
マナは見た目に反して、ずいぶん大人びている。
「ええ、そうですか?」
マナは黄色とピンクの二色をあしらったランドセルである。
「マリアが四年前に背負ってたってほうが驚きだヨ」
盾に使っていたので、ボロボロであった。
「エリちゃんはいま背負っても違和感無いんじゃない?」
確かに、小六女子の平均身長にも満たない。
「マナさま、もう明日の用意をされているのですね」
タブレットを取り入れるようになったといっても、毎日の荷物は相変わらず多い。
「はい、早めにやっておかないと落ち着かないんです」
忘れ物もなく、成績も良い。
「大人になると段取り段取りって言われるけど、もうこの頃から始まってるのかも知れないね」
この兄にして、この妹ありである。
「あんたはやりすぎなのよ。あれもこれもって詰め込みすぎて、時間がいくらあっても足りないわ」
過労・勤労タイプはこの傾向がある。
「メシヤ、見切りってのも大事だヨ」
無駄な予定を入れていないだろうか。
「そうだね。カバンとか車の中とか、定期的に整理しないと」
物を大切にするからこそ、要らないモノであふれさせてはならない。
「お兄ちゃん、リストにするの好きだよね。ああやって在庫管理とかすると、間違って買うこともなくなるし、すごくいいことだと思うな」
端末でするのと、紙に書いて手を動かすのと、どうも頭の整理のされ方が異なるようだ。
「リスト表はPCで作るけど、途中で色んな気づきがあるんだ。次の回の時にも微修正して使って、そこでまた要るモノ要らないモノが整理されて」
スマホ・財布・カバンを紛失して、大慌てしたことはないだろうか。中身に何が入っていたかも思い出せず、どこに手続きをすればいいか途方に暮れてしまう。
「それは分かるかも。やることを頭の中に置いとくだけだと、絶対なにか抜けるのよね。すぐやれば忘れないけど途中で電話とかLINEとか来ると飛んじゃうわ」
抜群の記憶力を持つマリアにしても、これである。
「そういうリストをチェックしていく瞬間ガ、快感かナ?」
チェックがすべて完了すると、何の気兼ねも無く自分の時間を有意義に過ごせる。
「もしこういう細かい段取りがいらない職業があるとしたら、芸術家くらいでしょうか?」
「天才型の芸術家って誤解されがちだけど、いくらそうした人でも自分流に身の回りの事が片付いていないと、いざそういうインスピレーションが降りてきたときに、逃しやすいんじゃないかな」
才能ばかりに頼る天才は、持続力が無いだろう。
「自分流、ね。清廉潔白・品行方正であればそうした発想が閃くってわけじゃないのよね。それが難しいところだわ」
運命は、勇者を愛する。