第118話 あきらめたら、そこで日本終了ですよ
文字数 817文字
ススムが居残りで特訓を受けている。
「熱心な事じゃな」
ススムの拳撃を次々と受け止める雲水翁。
「まだまだです!」
道着はすでに汗まみれである。
「ふむ、ミドルかの」
ススムの拳が止まった。
ススムは決して口にしないが、ミドルに大きく水をあけられたと感じている。
「師匠にはなんでもお見通しですね」
戦闘力的にはさほど大きな違いがあるわけではない。ただ、ミドルには瞬間的な爆発力がある。
「あやつも最初は箸にも棒にもかからんひよっこだったんじゃよ。ここに来てからは修行に明け暮れておるがな」
ミドルもススムも雲水から工学的サージカルオペレーションを受けている。
「みたいですね。今からは想像も付かないですが」
雲水の門を叩く前は、ミドルはススムに敵わなかっただろう。
「ミドルの良いところはな、疑問に思ったことをなんでもすぐやってみるところなんじゃ。まあ、あまり頭で考えるのが得意ではないからの」
ススムは学があるだけに事前に予防線を張ってしまう。
「そうですね。ぼくもあいつのそういうところは見習わないとと思っています」
好敵手はお互いに遠慮し合う関係では無い。
「ススムの長所はそれじゃぞ。ミドルは頭に血が上りやすい。ドゥニア・ゲランガンの決勝も褒められたものではない」
あの試合に関しては、ミドルに恩があるススム。
(ウィリー・・・)
(うん。ススム、遅くまで頑張ってるわね)
ススムは気が昂ぶっているのか、まんじりともせず躰を痛めつけている。
「アーミー、もうその辺にしたほうがいいんじゃない?」
「そうよ。もう夜も遅いわ。躰を労るのも武術者の務めよ」
「いや、もう少しで何か掴めそうなんだ。まだぼくはやるよ」
ススムはいま感じた気持ちが、惨めさだとは思いたくなかった。
「そう? ならいいけど」
ウィルとキョウコは卍の館へ消えていった。卍の館は、外観が本当に卍の形状をしている。
(才能無ぇやつがあきらめよくて、何が残るってんだよ!)