230 廃都ダンジョンについて

文字数 2,087文字

 魔族として覚醒したライレンシア博士。
 その魔力が廃都ダンジョンと結びついてしまったと皇帝陛下は言う。

 廃都ダンジョン。
 正確には廃棄都市ダンジョンと言うらしい。

 元は原初の魔法使いヘルメスが建設した帝都ガルシラ。
 しかし魔族との戦いで荒廃してしまった。
 帝都はここ――ガルアシラ・ヴォルフォンシアガルドに遷都。
 旧帝都ガルシラは世界四大ダンジョンの一つとなった。

 ダンジョンである。
 それがライレンシア博士の魔力と結びつくというのはどういうことだ?

 皇帝陛下が言う。

「それが……あの地は単なるダンジョンではなかったようなのだ。いや、違うな。ダンジョン自体はモンスターが生息する普通のダンジョンなのだが、その元となった帝都ガルシラが特殊な魔力を帯びていた、というべきか」

 んんん?
 どういうことだ?

 この世界のダンジョンっていうのは『魔物が生息している土地』という意味だ。
 その原因は濃い魔力。
 そして魔力が濃いのはその地に魔王の肉片があったから、ということだった。

 特殊なのは世界四大ダンジョンの一つ、天空塔ダンジョンだ。
 あそこは、ヘルメスさんが造った人造ダンジョン。
 その目的は、魔王が復活しないよう大陸中の魔力を調整することだった。

 廃都ダンジョンもそういう人造だったというなら話はわかりやすい。
 俺が天空塔ダンジョンと接続したように。
 ライレンシア博士が廃都ダンジョンと接続したとしても納得できるからな。

 しかし皇帝陛下によるとダンジョン自体は普通のダンジョンだという。

「つまりこういうことですか?」

 ラッカムさんが言う。

「帝都ガルシラにはもともとなんらかの術式が施されており、都市自体が魔力を持っていた。そのガルシラが滅んでダンジョン化したが、ガルシラの術式はまだ生きていた。ライレンシア博士は、その術式を介して、ダンジョンごと帝都ガルシラの魔力と接続してしまった……と」

「そうだ。その理解で合っている」

 頷く皇帝陛下。

 うん。
 整理できてきた。

 で、問題はだ。

「その術式というのは、いったいなんなのでしょうか?」

 と訊くのはドワーフ嬢のアルメルだ。
 ずっと黙ってたのに、都市に施された術式というので我慢できなくなったようだ。
 このオタクドワーフめ……。

 皇帝陛下は特に気にする様子もなく答えを返す。

「詳しいことはわからない。だが、都市全域を防衛する機能であることは間違いないようだ。魔族との戦いに備えて開発されていたようだが、実際の戦いには間に合わなかったらしい」

 ということは未完成のシステムってことか。
 それでかえってダンジョンやライレンシア博士の魔力と結び付いたのかもな。

「ライレンシアは都市の中枢部に囚われている。私はそこへ近づくことも都市から出ることもできない状態だったが、ガイアンの手助けでなんとか抜け出し、ここに辿り着いたのだ」

「団長は生きてるんですかい!」

 リザルドさんが驚きと喜びの声をあげる。
 ガイアンは帝国の騎士団長。
 リザルドさんはその配下の冒険者部隊の隊長だった。

「ああ……私を諌めに来たのだが、廃都ダンジョンの現状を見て、私の脱出に手を貸してくれた。今はダンジョンのどこかに身を潜めているはずだ」

 ガイアンさんとは俺はまだ直接顔を合わせたことはない。
 だが、話を聞くかぎり、かなり忠義に厚い人っぽいな。

「それで、一つ確認しておきたいのですが」

 とラッカムさん。

「陛下は廃都ダンジョンに身を移される際、魔族による国家の樹立を宣言なされた。そのお考えに今も変わりはないのですか?」

 その問いに皇帝陛下は迷いなく頷いた。

「……ああ。それは変わりない。私は、魔族との共存を唱える。争いの起こらぬ道を探りたいのだ」

「…………」

 難しい顔をするラッカムさん。
 俺は代わりに答える。

〈やりましょう〉
「リビタン殿!?」

 驚かれた。
 まあ無理もないか。

 この二年間、魔族は各地で暴れ回り人々を苦しめたらしい。
 その実態は眠ってた俺には知るよしもない。
 だから勝手なことを言うなって思われるかもしれないけどさ。

 それでも。

 ここにいるみんなは俺を受け入れてくれた。
 中身が空っぽのさまよう鎧――リビングアーマーのことを。

 それに見てほしい。
 人犬族。
 エルフ。
 ドワーフ。
 ゴブリン。
 ドラゴン。
 オーク。
 あらゆる種族がここに集っている。
 魔族とだけは相容れないなんて、そんなことはないと思う。

 だから――。

〈やってみましょう〉

 俺はもう一度告げた。

 ロロコが。
 クラクラが。
 アルメルが。
 ラファが。
 ドグラとマグラが。
 ヒナワが。
 大きく頷いてくれた。

「仕方ないな。なんだかオレだけがわがままを言ってるみたいじゃないか」

 ラッカムさんは苦笑して皇帝陛下に向き直った。

「こういうわけです。陛下のお申し出、謹んでお受けいたします」

「おお――!」

 と、話がまとまったそのときだ。

「たたたたたった大変だぁ!」

 外で見張りをしていたオークの一人が部屋に飛び込んできた。

「だ、だだだだダンジョンが空を飛んで攻めてきたぁ!」

 えーと…………。

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