94 第一の難関・蛇地獄

文字数 2,078文字

 どうも、リビングアーマーの俺です。
 こっちはゴブリン娘のラファ。
 あっちは巨大な蛇の皆様。

 いやなんだよあれ!
 群生地だとは聞いてたけどさ!

 群れってレベルじゃねーぞ。
 なんつーか、風呂?
 蛇風呂だよあれじゃ!

 俺たちはエルフのクラクラを助けるため絶海の孤島ダンジョンに挑んでいた。
 ここがクラクラをさらったドラゴンの棲家だからだ。

 現在、パーティメンバーのロロコとアルメルとは逸れてしまった。
 孤島の地上に出て落ち合おうと約束して、俺たちはそこに向かっている。

 ラファによれば、そこにたどり着くまでには三つの難関があるという。
 その一つ目が、今俺たちの目の前にある光景ってわけだ。

 ケイヴ・スネークの群生地。

「ね、すごいでしょ」

 いや、そんな誇らしげに言われても。

 まあ認めるよ。
 たしかにすごいよ。壮観だよ。
 もしスマホがあったらパシャパシャ撮影してるよ。
 めっちゃテンション上がってるよ。

 これから自分がこの上を通らなきゃいけないんじゃなければな!

 そこはほぼ円形の窪地になっていた。
 反対側に、俺たちが目指す道がある。
 そしてその窪地には、地面がまったく見えないくらい、蛇がひしめいているのだ。

 蛇一体一体もかなりでかい。
 動物園でニシキヘビを見たことがあるけど、あれの三倍くらいはあるんじゃないか?

 頑張れば自動車くらい飲み込めそう。
 それくらいの大蛇が数千とか数万とかいうレベルで群れているのだ。

〈これ、どうやって渡るんだよ……〉

 実は目に見えない板が空中に浮かんでるとかじゃなきゃ突破は不可能でしょ……。

「そうだねー」

 と腕を組むラファ。
 左手が巨大な義手なので、とても組みにくそうだ。

 腕の組みにくさなら俺も負けてないけどな!

「リビタン、宙に受けたよね。あれで蛇の上をまっすぐに突っ切るのは?」
〈それはやめたほうがいい〉

 俺は前に、カエルの群れを飛んで突破しようとしたときのことを思い出す。

 俺の身体はだいたい一メートルくらいしか浮かび上がれない。
 飛行速度も風船か! っていうくらいとろい。

 そんなペースで飛んでいたら確実に蛇に巻きつかれるだろう。

「そっかー。じゃあ、壁伝いに行くほうがマシかな」

 とラファは窪地の縁を指差す。
 窪地の縁はそのまま壁になっていて、かなり高いところまで隔たっている。
 丸いコップの内側をイメージしてもらえればいい。

 しかしその壁は湾曲して『返し』になっている。
 高難度に挑戦するボルタリング選手みたいなことをしなくちゃいけなさそうだ……。

 でも他に方法はないっぽい。

「幸いケイヴ・スネークはあまり耳が良くない。ちょっとくらい音を立てても問題ないと思う」
〈なるほど〉

 というわけで、こういうことになった。

 ラファの持ち物にあったでっかい釘みたいな金具。
 これを持った俺の上半身が飛んでいって、壁に打ち付ける。

 そこへ、ラファを乗せた俺の下半身が飛んでいく。
 ラファが金具に掴まってる間に、俺の上半身は次の金具を打ち付ける。

 ラファが金具を引き抜き、俺の下半身は次の金具のところまで飛んでいく。

 これを繰り返して壁伝いに移動していくのだ。

 問題はあまり長い距離を一気に移動できないということ。
 この場合俺は、

『装着者がここにいるなら、鎧がここにあってもおかしくないよね』

 っていう認識の範囲でしか移動できないようだ。

 つまりラファからそこまで遠く離れられない。
 なので、金具を打ち込んでいく間隔はわりと狭い。

 けど、それでもちゃんと少しずつ進んでいける。

 まあ、めっちゃおっかないけどな!

 なにしろ、もしミスったら蛇風呂に真っ逆さまだ。
 想像しただけでゾッとする。

「ん?」

 とラファが呟いた。
 だいたい、壁を半分くらいまで来たあたりだ。

〈どうした?〉
「なんか、蛇がこっちに寄ってきてるような」
〈おいおい、やめてくれよ……〉

 ……ぎゃー!
 本当だ!

 それまでほぼ水平だった蛇風呂の表面。
 それが俺たちのいる場所に向かって高くなっていた。

 蛇が全体的に俺たちに集まってきてるってことだ。

〈どういうことだよ!〉

 こいつら、音は聞こえないんじゃなかったのか?

「音は聞こえないけど、目はめっちゃいいか、臭いに敏感なのかな」

〈いまさらそんな!〉

 どうするんだよ!
 目的の道までたどり着く間に、蛇がここまで登ってきそうだぞ。
 引き返すにも同じくらい時間かかるし。

〈…………ん?〉

 と、そこで俺はそれに気がついた。

 蛇たちが移動したせいで窪地の地面が一部露出していた。

 そこに、なにやら光るものが。

 よく見てみる。
 金属のような、石のような、奇妙な材質でできた人工物。

 それは、ラファの義手と同じもの――ゴーレムの一部のようだった。
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