EX33 ゴーレムたちの話

文字数 1,195文字

 絶海の孤島ダンジョンから突然現れたゴーレムたち。
 彼らはひたすら何かを目指していた。

 彼らに意思はない。
 彼らに自我はない。

 持っているのは、受信した命令を実行するための魔術回路。
 それと、製作時に分け与えられた創造主の魔力だけである。

 そんな彼らに今、意識のようなものが芽生えつつあった。

 しかし、それは彼ら固有のものではない。

 そうではなく、どこかから流れ込んでくる別の者の意識。

 それが彼らに、共通の自我をうみだしつつある。

 命令を受けて動く従属物ではなく。
 彼らの一体一体。
 そのパーツ一つ一つ。
 それら全てがその意識を有する存在となる。

 全体で一つ。
 一つでありながら複数。

 そして彼らは、その彼ら自身が有する、一つの意思によって歩み続ける。

 天空塔ダンジョンと呼ばれる場所を目指して。

 人に危害を加えることはしない。

 エルフの人々が暮らす土地を通り過ぎる。
 しかし、その建造物は破壊することなく迂回する。
 エルフから攻撃を受けたが、構うことなく進む。
 何体かが壊れるが、動けるものは変わらず歩く。
 動けなくなったものはパーツを組み合わせ、動けるようにして進む。
 なんにせよ、反撃する必要はない。

 エルフたちは攻撃をやめた。
 ゴーレムが自分たちに危害を加えることがないと気づいたのだろう。

 ほどなく、エルフの国を通り過ぎた。

 ヴォルフォニア帝国軍の部隊の傍を通り過ぎる。
 帝国軍の兵士もこちらに攻撃を仕掛けてきた。
 しかし、近寄ってくる者はいない。
 遠くから矢が飛んでくるだけだ。
 この程度の物理攻撃ではゴーレムはびくともしない。
 帝国軍も、危険はないと判断し攻撃をやめた。

 帝国軍はエルフの国を攻撃しようとしているようだ。
 そのことは『彼女』に伝えておいた方がいいだろう。

 自分は今、直接外界と意思疎通をすることができない。
 なのでそれは塔の管理者――ヘルメスの意識の残滓に頼むことにする。

 やがて、大きいわりに作りの雑な、大きな建物が見えてきた。

 その手前で一人の男が叫んでいるのが見える。
 あれはバリガンガルドの城主、ガレンシア公爵だ。

「うわああ! な、なんだあの鉄屑どもは!? こ、このままでは建物にぶつかるではないか! こっちへ来るなゴミども〜!」

 なんかイラッときたので、その無駄にでかい建物は避けないことにした。

 大重量のゴーレムの群れがハリボテみたいな建物を徹底的に踏み潰した。

「ぎゃあああ! せ、せっかく作ったエルフの奴隷収容施設が……! こ、こんなことが知れたら帝国からの軍事技術の供与を打ち切られてしまう!」

 頭を抱えるガレンシア公爵。
 事情はよくわからないが、ロクでもない建物だったようだ。
 ちょっと気分がスッとした。

 しかし、ガレンシア公の叫びには構わず、ゴーレムたちは歩き続ける。

 目指すは天空塔ダンジョン。

 そこで、塔の崩壊を防がなければならない。
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