44 たとえこの身が砕けても

文字数 1,743文字

 あばばばばばば!

 せっかく久しぶりにフル装備になったのに、狼の遠吠えで全部ヒビが入ったよ!?

「ありゃあ、風魔法の〈ハウリング〉か?」

 狼の足元のラッカムが呟く。
 へー、そういうのがあるのか。

 なんて落ち着いてる場合じゃない!

 いまの衝撃で、ラッカムもロロコも、人犬族も倒れてる。
 まともに立ち上がれないみたいだ。
 うん、俺も宙に浮いてるけど、まだなんか酔ってるみたいに周りが揺れてるもん。

「ひゃーはっはっはっは!」

 と、岩山の上からカンにさわる笑い声。

「いいぞガルガルくん! やっちまえー!」

 バカ領主か……。

 ひとりで手叩いて盛り上がってんじゃねーぞ!
 まわりの部下がめっちゃ白い目で見てるのに気づいてねえだろ。

 くそっ……。
 本当によ……。

 いや、たしかに俺はさ。
 この世界のこと、なにも知らねえよ。
 どんな人種がいるのかとか、どんな歴史があるのかとかさ。

 ロロコたち人犬族のことだってほとんど知らねえ。
 もしかしたら、昔は人犬族が人間を迫害してた時代があったのかもしれん。
 その禍根が残ってて、人間が人犬族を排斥してるのかもしれない。

 だとしても。

 それがどうした?

 俺はロロコと一緒に行動してきた。
 あいつは、まだあんな子供なのに。
 弱音も吐かずに戦ってたんだぞ。
 自分の仲間のために。
 あるいは俺のために。
 命を失ってもおかしくない戦いに身を投じてきたんだ。

 そんなあいつの決意をさ、

 あんなバカが笑って手叩きながら、

 軽々しく踏みにじっていいはずねえだろうが!

〈――ああああああああああああああ!〉

 俺は声を上げる。
 それだけで、鎧が砕けそうだぜ。

〈ロロコ!〉

 倒れてたロロコが起き上がる。

 わかるぜ。
 お前はまだ、あきらめてない。
 こんなところであきらめるようなやつじゃないよな、お前は。

〈一発でいい! 最大級のやつをこいつにぶちかましてやれ!〉

「――わかった」

 いいね。
 余計な言葉は必要ない。
 一緒に修羅場をくぐり抜けてきただけのことはある。
 ロロコも。
 俺も、少しはな。

 俺は狼の周りを無駄にグルグル回って翻弄しながら、パーツを組み立てていく。

 狼は俺に気を取られて、ロロコが構えてるのには気づいていない。

 ロロコはフラフラになりながら狼を睨む。


「ファイア!!」


 大絶叫。

 そして、巨大な火球が狼にぶち当てられる。

 ――グロロロロロオオオオオオオオオッン!

 さすがに全身火だるまってわけにはいかない。
 それでも、身体の一部を焼かれて、狼は動きを止める。

 そこへ突っ込む俺!

〈おりゃああああああああああ!〉

 剣をまっすぐに狼の眉間へ向ける――

 ――グオオオオオオオオオオン!

 バシャン!

 狼が前脚を一振り。

 それだけで鎧が吹き飛ばされた。

 ――がしゃんがしゃんがしゃん!

 地面に叩きつけられる各パーツ。
 ヒビのせいで、どれもこれもぶっ壊れてしまう。

 …………はっ。

 いいよ。
 くれてやるよ、そんなもの。

 俺の思いは、
 全部こっちの、
 右腕に込めてんだからな!

 ――グォォォォ!?

 驚いてるな?

 そう。
 あらかじめ右腕だけ他のパーツから外してたのだ。
 だから、狼に鎧を吹っ飛ばされても、そこだけは狼の眼前に残った。

〈くらええええええええええええええええええ!!〉

 ――ズズン!

 奇妙な手応えだ。

 考えてみりゃ、剣で敵倒すのなんて、これが初めてかもしれん。

 剣は、ざっくりと狼の眉間に刺さっていた。

 ――グルルルオオオオオオオオオオオオッ!

 狼は絶叫。
 めちゃくちゃに暴れまわる。

 ――ベシン!

「ぶぎゃ!?」

 あ、尻尾がバカ領主にぶち当たった。

 そのまま岩山の奥の森へ吹っ飛んでいく領主。

 はっはー。
 ざまあみろ。
 
 狼はすぐに力を失った。
 そのままゆっくりと身を倒していく。

 ――ドオオォォォォォン。

 巨大狼は轟音を響かせ、地面に横たわった。
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