212 クーネアの話

文字数 1,160文字

 この世界が滅びかけている。
 かたや、大陸を魔族のものにしようとしているヴォルフォニア帝国。
 かたや、魔王の力で世界を滅ぼそうとしているエド・チェインハルト。

 だが、それを防ぐ手段はある、らしい。

 それをクーネアさんが言ってくる。

「リビタン様には、ロロコ様と共にエドがいる洞窟に潜入し、エドを殺してほしいのです」

 ……殺す、か。
 エドの秘書だったクーネアさんがそんなことを言うなんてな。

 そういえば、クーネアさんがどうしてこの陣営にいるのかはまだ聞いてない。

「そうでしたね。リビタン様にしていただきたいことの説明も兼ねて、その辺りをお話しいたします」

 クーネアさんはそう言って、メガネを持ち上げた。

「わたくしはエドと共に、ベル様の元へ赴き、ゴーレム軍団の調整を行っておりました」

 エドはベルにそこで、ヴォルフォニア帝国を攻めるよう提案したんだったな。

「はい。しかしエドは裏で、魔王の力を大陸に放出する準備を進めていたのです。彼は初めから、あなたを魔王復活のために利用するつもりだったのです、リビタン様」

 俺を?

「人の意思を持ったリビングアーマー……おそらくエドは、あなたが自分と同じ転生者だと気づいていたのでしょう」

 ああ、そうか。
 俺から見るとエドは普通の人間と同じだから気づかないけど。
 エドから見れば俺は、魂が別の世界からやってきたと推測できるもんな。

「であれば、本来は魔物なので魔力を自由に扱い、同時に術式を理解できる知性を持つ人間でもあるあなたは、レベルアップ次第で、どんなものでも自分の身体の一部として認識し、魔力と術式によって操ることができるようになります」

 うん。
 実際その通りだった。
 鎧だけじゃなく、冒険書まで操れるようになってたし。

「その力を利用すれば、大陸全土の魔力を操り、魔王の力で世界を満たすことも可能――そう考えたのでしょう」

〈けど……クーネアさんは、それをわかっててエドの秘書をしてたんじゃないの?〉

「ええ。ですが、彼の目的が世界を滅ぼすことだとは思いませんでした」

 クーネアさんは目を伏せる。

「わたくしは、貧しい土地の出身です。家族は帝国の侵略戦争に巻き込まれ死にました。ですから、この世界を恨み、復讐したいと考えていました。でもそれは……自分が帝国すらも跪かせるような組織の一員になることで果たしたいと願っていたものです。滅ぼしてしまっては、相手の悔しがる顔すら見られない……」

 それでエドとは袂を分かったというわけか。

「ゴーレム軍団のサポートをするていでベル様についていき、そのままこちらの陣営に入れていただきました」

 なるほど。
 事情は理解した。

 それで、俺は具体的にどう行動すればいいのだろうか。

「はい、リビタン様には、リビングアーマー旅団6000体を率いていただきたいのです」
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