138 この世界にはクノイチがいる!

文字数 1,661文字

 どうも、リビングアーマーの俺です。
 バラバラになって忍者を追いかけてます。

 右腕パーツと左腕パーツが、別の入り口から地下水道に入る。
 忍者を発見!
 左右から挟み込む!

「っ! 変わり身の術!」

 変わり身の術!?

 マジで!?
 本当に忍者じゃん!
 すげー!

 なんて感動してる場合じゃない。
 逃げられたら困るんだ。

 この!

 腕を移動させて忍者につかみかかる。

 直後、激しい揺れがオレを襲う。

 どうやら忍者が高速移動したらしい。

「む! 消えたぞ!」

「どこ?」

 クラクラとロロコが言っている。
 彼女たちも、忍者を追って地下水道を走っていたのだ。

〈おおい、こっちこっち〉

 忍者の移動で揺すぶられてどこにいるかはわからないけど、とりあえず声を上げる。

「な、なんなのこの鎧? 口をきいた?」

 気味悪そうに俺を振り解こうとする忍者。

 残念、掴んだら離さないぜ!

「この! 離せ! この!」

 忍者はクナイでガスガス俺を刺してくる。

 おお、クナイ!
 服装も歴史村とかで見たのと同じだ。

 こりゃもうマジで忍者だな。
 しかもクノイチ。

 これを偶然で片付けるのは無理があるだろ。

 この忍者の出身だっていうヤマトの里。
 絶対俺がいた日本と関係あるって。

 それはそうと、今はこの忍者におとなしくしてもらわないと。

〈おい、待て。落ち着いてくれって〉

「やかましい。面妖な鎧め! 狐狸妖怪の類だろう? 聞く耳持たんわ!」

 狐狸妖怪て。
 いや、まあ、そんなようなもんですけどね……。

〈とりあえず落ち着いて。話を聞いてくれ。俺たちはチェインハルト商会に頼まれただけなんだ〉

「ではなおさら捕まるわけにはいかない! 拙者はあそこで見た事実をガイアン様にお伝えせねばならぬ。離せ!」

 拙者!
 一人称もちゃんと忍者!

 いや、食いつくところそこじゃないぞ。

 ガイアンってどこかで聞いたな。
 ええと、誰だっけな。

「帝国の騎士団長に雇われた忍か。エド殿の予測は当たっていたようだな」

 お、クラクラ。
 それにロロコも。

 そうか、思い出したぞ。
 絶海の孤島ダンジョンで出会ったリザルドさんたち。
 あの冒険者部隊を雇っているのが、ヴォルフォニア帝国騎士団長のガイアンだ。

 エドはガイアンに、ダンジョンのゴーレム発掘を依頼した。
 なのに、ダンジョンにドラゴンがいることを知らせなかった。

 協力関係にあるフリをして、エドはなにかを企んでいるっぽい。
 しかし、ガイアンって人も、エドを信用しきってるわけじゃないってことだな。

 それで、忍者を密偵に放っていたってわけだ。

〈悪いが、俺たちの仲間を助けるために、あんたをエドに引き渡さなきゃならないんだ〉

「っ……信じられぬ! あの男がなにを企んでいるのか知らないのか? あの建物の地下になにがあるのか……」

 なんだなんだ?
 気になる言い方するじゃないか。

 忍者は怯えるようにブルリと身を震わせた。
 まるで目の前にそれがあるかのように。

「興味深い話じゃの。それ、聞かせてもらおうか」

 お、ドグラ。
 アルメルも。

 全員揃ったな。
 俺のパーツも集合したので、俺は元の姿に戻る。

「お、お前は何者だ……?」

〈ええと……冒険者ですけど〉

「嘘つけ! どう見てもリビングアーマーだろ! なんだ喋るリビングアーマーって!」

 あの、口調が忍者っぽくなくなってますよ。
 ひょっとしてあの口調、頑張ってやってるの?

「そんなことよりさっきの話をするのじゃ。あの建物にはなにがある?」

「…………」

 忍者は俺たちを見回すと、観念したようにため息をついた。

「いいだろう。話を聞けば、お前たちもあの男の味方をしようなどと思わなくなるかもしれないしな」

 彼女はそう前置きをして、あの建物の地下で見たものについて話し始めた。
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