104 三すくみって知ってるか?

文字数 1,761文字

 どうも、リビングアーマーの俺です。
 隣にいるのはゴブリン娘のラファ。

 正面にいるのは大蛇の群れ。
 右斜め後ろにいるのは巨大カエルの群れ。
 左斜め後ろにいるのは巨大ナメクジの群れ。

 ぬわああああ!
 どうすりゃいいんだよこれ!

 これはヤバい。
 さすがにヤバい。
 どうしようもないでしょ。

〈ラファ、お前の手のビーム、まだ撃てないのか?〉
「ビーム? ああ、光線のこと? うーん、まだダメっぽいね」

 ラファの左腕は義手で、ゴーレムの巨大な腕だ。
 そこからは超強力なビームを放てる。
 あれならここにいるモンスターを一掃できるんだけど。

 あの攻撃は一日一回しか撃てないらしい。

 くそ、まだ使えないか……。

 えーと。
 じゃ、じゃああれだ。
 俺の身体にくっつけたゴーレムのパーツ。
 右腕パーツはワイヤーを使って伸ばすことができるけど。
 頭パーツはなにか撃ったりできないのか?

〈ぬおおおおおおっ……!〉

 俺は気合を入れる。
 しかしなにも起こらなかった!

「なにしてるの?」

 なんでもねえよ!

 ゴーレムパーツが接続されたときに、どんな機能があるかは把握している。
 頭部パーツは他のゴーレムと情報をやり取りする機能があるらしい。

 今は特になんの情報も入ってこない。
 俺が使ってると機能しないのか。
 あるいは動いているゴーレムが近くにないのか。

 どちらにしろ、霊体の俺が操作している限り、あまり関係のある機能じゃない。
 少なくとも現状をどうにかできるものではない。

 じゃあ、どうする?
 どうすればいい?

 蛇とカエルとナメクジが今にも襲ってきそうなこの状況……。

 ……………………?

 蛇とカエルとナメクジが。
 今にも襲ってきそうな。
 この状況。

 ……………………襲ってこねえな。

 俺は改めて周りを見回す。

 ――シャーーーーーーーーー!

 と蛇が声を上げている。

 ――ゲコゲコゲコゲコ!

 とカエルが鳴いている。

 ――にゅにゅにゅべしゃ!

 とナメクジが蠢いている。

 ……それだけだ。
 三グループとも、威嚇するみたいな動きをするだけで、その場から動かない。

 ん、待てよ……。
 蛇。
 カエル。
 ナメクジ。
 それって……。

〈……ラファ。この場を離れるぞ。なるべくそっと。静かに〉
「え? でもそんなことしても追いかけられるんじゃない?」
〈いや、たぶん大丈夫だ〉

 俺はそおおおおっと身体を動かす。
 鎧なのでどうしても金属音が鳴ってしまうが、できる限りゆっくりにだ。

 幸い、モンスターたちは俺の移動に気付いていないっぽい。
 やっぱりか。

 ラファも俺にゆっくりとついてくる。

 蛇の群れとカエルの群れの間にある隙間を通って、出口の穴へと向かっていく。

 ――シャーーーーーーーーー!
 ――ゲコゲコゲコゲコ!
 ――にゅにゅにゅべしゃ!

 モンスターたちはお互いに威嚇しあってばかりで、俺たちには気にも留めない。

 そして俺たちはそのままその場を脱出することができた。

「なんで襲われなかったんだろう?」
〈三すくみってやつだな〉

 三すくみ。
 ジャンケンでお馴染みの関係性だ。

 蛇はカエルを一飲みにできる。
 カエルはナメクジを舌で捕らえて食べてしまう。
 ナメクジは粘液で蛇を溶かしてしまう。

 強弱関係がぐるっと一周している。
 なので、三者が同時に出会うと、警戒し合ってみんな動けなくなってしまう。

 まあ、実際にはナメクジが蛇を溶かすなんてことはない。
 なので、現代日本に伝わっていたこの話は嘘っぱちなんだけど。

 どうやらこの世界ではそれが実際に成立するみたいだな。

「へー、知らなかった」

 ラファが感心したように言ってくる。

「地上にいるマギ・フロッグ・ノームがここまで来ることなんてなかったからね。そんな状況を見ること自体なかったし」

 なるほどな。

 なにがあったのか知らないけど。
 運よく天井が崩れてくれて助かったぜ。

〈よし、それじゃ先に進もう〉
「うん」

 俺とラファはようやく地上部目指して進むことができた。
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