4 鑑定スキル的なもの

文字数 2,453文字

 転生したら鎧になっていた俺は、ネズミから逃げていて階段から転げ落ちた。
 転げ落ちた先は洞窟ダンジョンだった。

 そして、なぞの気合いで暗闇でもものが見えるようになったわけだが。
 この先どうしよう?

 洞窟はまっすぐ前に伸びてる。
 背後は、あの屋敷に通じる階段。

〈……とりあえず、進んでみるか〉

 屋敷には大ネズミたちがいる。
 あそこに戻るのはごめんだ。
 それに、奴らがここまで追いかけてこないとも限らないしな。

 ガシャンガシャンと音をたてて洞窟を歩く。
 どうでもいいけど、この音どうにかならないかな。
 モンスターとかに発見されまくりじゃんね。

 ガシャンガシャン――。

〈お……?〉

 そうしてしばらく歩いていると、初めて分かれ道が現れた。
 分かれ道というか、横道みたいな感じだ。
 まっすぐに伸びている洞窟の壁に穴が空いている感じ。
 俺はその中を覗き込んでみた。
 中は小部屋みたいになっている。
 道が続いてるわけではないみたいだ。
 そこに――。

〈――うわあああああああ!〉

 白骨死体!
 ししししし死んでる!
 ひゃ、ひゃくとおばん!
 ケータイ――なんか持ってるわけあるか!

 ――ふー。
 あ、いや、ここここ怖くなんかありませんよ?
 異世界ですもの、ダンジョンに死体くらいありますよね?
 ほ、ほら、実はスケルトンだったりしたら、襲われたらヤバいじゃないですか。
 だからちょっと警戒した、みたいな?

〈ふー……〉

 死体たちは動き出す気配はなかった。
 俺はそっと小部屋っぽい空間に足を踏み込む。
 踏み込んでから『トラップとかあったらどうしよう』と思ったが、もう遅いよな。
 幸い、なにも起きる様子はなかった。

 死体はふたつ。
 どっちも完全に骨になっている。
 服を着て、鎧も身につけていた。
 傍らには、剣も落ちている。
 冒険者とかだろうか。

 ……変じゃね?

 ここに来るまでちょっと歩いたが、かかった時間はたぶん30分もない。
 つまり、ここから30分も歩けば、あの屋敷にたどり着くのだ。
 そんな場所に、なんで白骨死体がある?

 ダンジョンのべつの入り口から歩いてきて、ちょうどここで力尽きたとか?
 実はあの大ネズミたち、冒険者でも突破できない厄介な相手だとか?
 可能性はいろいろ考えられるけど――。

〈ん……?〉

 と、死体から少し離れたところに本が落ちていた。
 本?
 ダンジョンにはまた不釣り合いな……。
 この冒険者たちの日記とかかな?
 だとしたら、この世界や、このダンジョンのことがなにか書かれてるかもしれない。

 革装丁の立派な本だ。
 いかにも異世界ファンタジーって感じ。
 表紙には文字らしきものが書いてあるけど、まったく読めん。
 人が喋ってる言葉はわかったんだけど、文字はさすがに無理かー。
 ページをめくろうと思ったが、手甲がないとうまくめくれない。
 これは困った。
 どうしよう。

〈…………〉

 手甲、ありますね、そこに……。

 うわーいやだなー。
 けど仕方ないかー。

 俺は白骨死体のひとつがつけていた鎧の手甲を外す。

 カタン!

 うわー!
 わ……ちょ、脅かさないでくださいよ。
 俺は骨がそれ以上動かないのを確認してから手甲を左腕に装着しようとする。
 ちなみに右腕は俺のパーツが壊れてるのでつけようがない。

 ん?
 これ、どうやってつければいいのかな?
 手甲は手袋みたいに手にはめるようになっている。
 中身がない俺では装着しようがない。
 そもそも本来の俺の身体じゃないパーツをつけて動かせるのか?
 うーん……。

 まあ、やるだけやってみるしかない。
 ぐい。
 と俺は床に置いた手甲に、左腕を押し付けてみる。
 ん?
 なんか、妙な感覚。
 動かしてみる。

 カシャカシャ。

 動いた!
 ミトンみたいな形の手甲は、俺の意思に合わせて、指部分を開いたり閉じたりした。
 やったぜ!

 では、さっそく本を開いてみよう。
 俺の手は、ミトン型だしデカいしでかなり不器用だった。
 だが、本を床に置いたままでなんとかめくってみる。
 しかし――。

〈わからん……〉

 中身も当然見たことのない文字ばっかり。
 役に立つ情報は得られそうになかった。
 俺は、あきらめて本を閉じる。
 と――。

『魔力を感知しました』

〈うわっ!〉

 本がしゃべった!?

 今気がついたけど、本は背表紙部分に青い宝石がはめ込まれている。
 それが、淡く輝いていた。
 ももも、もしかして俺、開いちゃいけない書物を開いちゃったりしました?
 呪われた魔導書とか……。

『魔力を上書きし、当該冒険書の使用者登録を更新しますか?』

 なに?
 冒険書?
 使用者登録?

 ――もしかして、だ。
 この本は冒険者がいろいろ記録を行うためのものなんじゃないか?
 しかも、この本、今日本語でしゃべった。
 感知した魔力の持ち主――俺――の言語が反映されてるみたいな感じ。
 つまり使用者登録とやらを行えば、俺はこの本を使えるようになるんじゃないか?

 …………よし、決めた。

〈登録を更新してくれ〉

『了解しました。魔力を上書きし、使用者登録を更新します』

 本がそう答えると、背表紙の宝石がひときわ強く輝いた。
 そして――。

『使用者登録を更新しました。第1ページ目に使用者のステータスを表記しました』

 おお!
 それはまさか鑑定スキル的なやつのことですか!?

 俺は本を開いてみる。
 そこには、こんな風に書かれていた。


『リビングアーマー LV.1 名前:なし
 HP:165/223
 MP:12/12
 物理攻撃力:23
 物理防御力:34
 魔法攻撃力:2
 魔法抵抗力:1
 スキル:霊体感覚
 称号:なし』
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