3 転げ落ちてダンジョン

文字数 2,185文字

 転生したら鎧になってた俺は、今ネズミの群れから逃げ回っています。

 なんだこの情けない状況説明……。

 しかし、実際にそうだからしょうがない。
 ついでに言うと、ネズミの体当たりで腹には大穴が開いてる。

 ちくしょう、俺がなにしたってんだ!

 ――チュウチュウチュウチュウ!

 大ネズミたちは明らかに興奮した様子で、俺を追ってくる。
 なかでも、イヌサイズのボスっぽい奴らがヤバい。
 なんか、天井とかから、身体を回転させてドリルみたいに突っ込んでくる。
 あいつらの普通の体当たりで腹に穴が開いたんだ。
 ドリルアタックなんかされたらえらいことになるぞ。

〈もういいかげん見逃せよ!〉

 思わずそんな弱音を吐いてしまう。
 せめてもの救いは息が切れないことか。
 元の世界だったら、とっくに力尽きてる。
 どうやら鎧の身体は疲れるということはないらしい。

 ガシャンガシャンガシャンガシャン――。

 と、ひたすら逃げ回っているうちに、廊下の行き止まりにたどり着いた。
 目の前には木の扉。
 が、困ったことに俺はそれを開けられない。
 なぜなら、手がないからだ。

 手というか、手甲ね。
 手首から先がスッカスカなので、ドアノブを握れない。

 うげ。
 これって、ピンチじゃね?

 ちらっと振り返ると、ネズミはさらに数を増して迫ってくる。
 もう、なんか津波みたいな感じだ。
 
 ――ギラリ。

 と、大ネズミたちの目が一斉に光った。
 ボスネズミが十匹ほど、ドリルアタックの構えだ。

 ちょー!
 待て待て待て待て!

 そんなんされたら死んじゃう!――かどうかはわからないけど。
 バラバラに壊れて動けなくなる!
 
 こうなったら……。

 どがん!

 俺は扉を殴りつけた。
 手甲のない腕が木の扉を粉砕する――。

 べきばきガシャン!

 ぎゃああああ!
 俺の腕が粉砕したぁあああ!?

 ちょ、ま、そこまでもろいかよ俺の身体!

 しかし、幸いなことに扉の方も壊れてくれた。
 俺は扉の向こうに飛び込む。

 ――ん?

 足元になにもない。
 どうやら、扉のすぐ奥から、下り階段になっているようだった。
 うっすらと見えて、それが分かったのもつかの間。

〈うわああああああああああ!〉

 俺はバランスを崩し、その階段を転げ落ちていった。

◆◇◆◇◆

 ガランガラン!
 ガシャンガシャン!
 ゴトゴトゴトゴトゴトゴト!

〈…………〉

 ひたすら転がり落ちて、ようやく止まっった。
 かなり長い時間落ちてた気がする。
 大ネズミどもの鳴き声も聞こえなくなった。
 さすがにここまでは追いかけてこないみたいだ。

 しかしなにも見えないな。
 感覚で腕パーツや脚パーツがバラバラになってないっぽいことはわかるけど。
 けっこうしっかり組み立ててくれたらしいな。
 盗賊さん、ぐっじょぶ!

 さてどうしよう。
 ほんと、マジで真っ暗だ。
 目の前に手をかざしても、まったくわからない。

 タイマツもマッチもチャッカマンもあるわけないし。
 光魔法とか使えるわけでもない。

 ……待てよ。
 本当に使えないかな?
 この世界にはモンスターがいる。
 魔法だってあるかもしれない。
 それに、俺の身体は、鎧のくせにネズミの体当たりで壊れるくらいのもろさだ。
 もしかしてひょっとして、魔法防御特化型の鎧だったりするんじゃね?
 ありうるありうる!
 よーし……。

〈――ライトニング!〉

 しーん。

 ……い、いや、まあ、この結果は予想どおりだし?
 念のためやってみただけだし?

 だいたい、もし仮にこの鎧が魔法防御特化型だったとしてもだ。
 それ、魔法が使えるってことじゃないよね。
 はぁ……。
 魔法はあきらめよう。

 で、この暗闇はどうすればいいだろうか。

〈待てよ〉

 そこで動き始める俺の灰色の脳細胞!

 そもそも、俺はなんでものが見えていた?
 視覚ってのは、目という感覚器が光を受容するから生まれるものだ。
 しかし、この鎧の頭部――兜には目なんてもんは存在しない。
 けど俺は、目があるあたりで、ものを見ているのだ。
 これ、光を受容して視覚を得ているわけじゃないよな?
 なんていうか『見る』っていう概念が鎧の一部に実態化してるみたいな。
 うまく言えないけど、なんか、そんなイメージだ。

 だとすれば、だ。

 俺って、全然光がないところでも、ものが見れたりしないかな?
 なんの根拠もない都合のいい推測だけど。
 まあ、試してみるだけ試してみよう。
 他にできることもないし。

〈…………〉

 兜の、なかに人が入っていれば目がありそうなあたりに意識を集中する。
 見る……。
 見る見る……。
 俺にはきっと見える……。

 そう念じ続けていると……。

〈…………っ!〉

 見えた!
 突然明かりをつけたみたいだ。
 ただし、ちょっと薄暗い感じはある。

 そして、周りが見えるようになったことで、今いる場所も明らかになった。
 上も下も横も岩で囲まれた、狭いトンネル。
 洞窟だ。
 異世界で洞窟とくれば、もう決まりじゃないか?
 
 ここ、ダンジョンだな!
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