194 救世主と呼ばないで

文字数 890文字

 どうも、リビングアーマーの俺です。

 天空塔ダンジョンのてっぺんまで連れてこられた俺たち。
 そこに現れたのは、原初の魔法使いヘルメス……の意識の残滓。

 彼女は、俺のことを『救世主』と言ってきた。

〈救世主って……どういうこと?〉

「言葉通りの意味です。この世界を滅びから救う者。だからこそ、わたくしはあなたをここへお連れしたのです」

 そんなこと突然言われてもなぁ。

〈俺、ただのリビングアーマーなんだけど〉

 いやまあ、ただの、かどうかは知らないけどね。
 平均的なリビングアーマーがどんなものかわからんし。

「ええ。この役目は普通の生物種には果たせません。あなただからこそ可能なのです」

 はあ……なるほど。

〈ってことは、魔王を倒せとか、そんな単純な話じゃなさそうだな〉

「そうですね。魔王はすでにわたくしが倒しました。今はそのような段階ではありません」

「いえ、待ってください。魔王はまだ残っています」

 とアルメルが口を挟む。

「チェインハルト商会のエドという人が、魔王を復活させようとしていました」

 そうだそうだ。
 フィオンティアーナ近くの実験施設でなんかやってたんだ。

 ヘルメスさんは答える。

「確かにあれは魔王の肉体ですが、ごく一部に過ぎません。倒す必要はありません」

 ヘルメスさん、どうやら大陸中の様子を把握してるみたいだな。
 なんか当たり前のように言ってるけど、すごいことなのでは……。

 それはともかく、魔王を倒すわけじゃないのか。

 いや、なんか引っかかる言い方をしてたな。
『そのような段階ではない』とかなんとか。
 倒す必要『は』ありません、とか。

〈ってことは、魔王をどうにかする必要はあるってことか〉

「その通りです、救世主」

〈……その救世主っての、やめてくれないかな〉

 なんか落ち着かない。

「わかりました。では、リビタン様」

 まあ、それでいいか。

〈で、俺はなにをさせられるんだ?〉

 救世主なんて柄じゃないけどさ。
 この世界を救えるのにできることがあるなら、やってもいい。
 できそうになかったら断るけど。

「はい。リビタン様にはこの世界を作り替えていただきたいのです」

〈……は?〉

 なんて?
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