125 商業都市フィオンティアーナへ

文字数 2,169文字

 むかしむかし。
 ドラゴンはあるエルフに恋をした。
 ドラゴンはプロポーズをし、エルフはそれを受け入れた。
 けれど、ドラゴンは魔法使いに攻撃され、封印されてしまった。
 ドラゴンは数百年の長い眠りについてしまった。

 ……というわけである。

 ドラゴンというのが俺たちが追ってきたドグラのこと。
 エルフというのが、ドグラがずっと言っているライレンシアのことだ。

 ライレンシアはクラクラにそっくりらしい。
 ひょっとしたら血が繋がっているのかもしれないな。

 バリガンガルドの近くの湖にそのエルフの名前がついている理由。
 それと、ゴーレムが自分をライレンシアと呼んでいる理由。

 それについては、

「知らん。わからん」

 ドグラはそう言い捨てた。

「人間どもが我とライレンシアの間の契りを聞き、面白半分に名付けたのか知らんが、勝手なことをするなと言いたい」

 不満たらたらだな。
 まあ気持ちはわかるけど。

「けど、あの、どうしてドグラさんは封印されたんです?」

 とアルメル。
 それもそうだ。

 エルフに求婚するくらいだし、人間に敵対的なドラゴンじゃなかったのでは?

 あれ?
 でも、たしかエドは、ドラゴンがひどい災厄をもたらしたとか言ってなかったっけ?
 七つの都市を滅ぼしたとかなんとか。

 俺がそう問うと、ドグラは目をとんがらせて怒った。

「それは我の双子の妹じゃ! 人間どもから見れば見分けが付かんから、勘違いして我を封印したのじゃ、あのバカ魔法使いめ!」

 あ、そうなんだ。
 じゃあ、その双子の妹のドラゴンはどうなったんだ?

「知らぬ。我は封印されて眠っておったのじゃからな」

 そりゃそうだな。

 うーん、つまりだ。
 ドグラはライレンシアというエルフと結婚しようとしていた。
 けど、勘違いで妹と間違われて封印されてしまった。
 そして、眠りについている間に、ライレンシアは……。

 なんか、可哀想だな。

「クラクラ、許してあげなよ」

 ロロコが言う。
 クラクラはうなずいて、

「そうだな……事情は察する。私も国に戻れれば文句はない」

「うわーん! クラクラは優しいのじゃ! きっとライレンシアの生まれ変わりじゃ! やっぱり結婚するのじゃ! 婚礼の準備じゃ初夜の準備じゃ!」

 がしっ! とクラクラに飛びつくドグラ。

「はなせぇ! 私にそっちの趣味はない!」

 まったく緊張感のない感じになってきたな……。

 ともあれ問題はこれで解決だ。

 俺たちはバリガンガルドに戻ってことの次第を報告。
 クラクラはフリエルノーラ国に戻って、ガレンシア公国からの独立を進められる。
 リザルドさんたちは、いったん戻って出直しするっぽい。

 俺はここまで案内してくれたゴブリン娘に声をかける。

〈ラファ、サンキューな。お前のおかげで――ラファ!?〉

 見れば、ラファが地面に倒れていた。

 慌てて駆け寄る。

「すごい熱です……!」

 額に触れたアルメルが叫ぶ。
 たしかに、呼吸も荒くて苦しそうだ。

 なにかの病気か?

「それは魔力過活性症じゃな」

 ドグラが言ってくる。

〈病気なのか?〉

「うむ……体内の魔力循環が活発化しすぎて起こる症状じゃ。おそらくその義手のオリハルコンのせいじゃろう」

 ドグラはラファの左腕のゴーレムパーツを指差す。

「オリハルコンは魔鉱石の十倍以上の魔導率を誇る。そんなものを直に取り付けて使っておれば、そうなるのも仕方なかろう」

〈でも、彼女はこれまでずっとこの義手を使ってたみたいだぞ……?〉

「あのゴーレムのせいじゃろ」

 とドグラは海辺に立つ巨大ゴーレムを指差す。

「ゴーレムが活動したことで、近くにあるオリハルコンが活発化したんじゃ」

 そうか……。
 つまり、ラファのこの症状は、俺たちと一緒に行動してたせいってわけか。

「魔力過活性症は放っておくと重症化する。このままでは体内の魔力が際限なく活性化し続けて、やがて肉体が耐えられなくなって……」

 その先は聞かなくても想像がついた。
 くそっ、どうすりゃいいんだ。

〈どうすれば治るんだ? その魔力過活性症ってのは〉

「うむ……オリハルコンを取り外すしかなかろうな」

〈取り外すって……〉

 そんな無茶な。
 ラファの義手は、彼女の肉体と思い切り融合してしまっている。
 こんなの取り外せるわけがない。

「いや、それなら、なんとかなるかもしれないぞ」

 と言ってきたのはリザルドさんだ。
 え? マジで!?

「フィオンティアーナなら、医術が発達していて、医者がたくさんいる。オリハルコンを取り外す手術をできるやつもいるかもしれねえ」

 フィオンティアーナ?
 なんか聞き憶えがあるな。
 ええと……。

「クーネアさんが来いって言ってた」

 それだ!
 よく憶えてたなロロコ。

 たしか大陸南方の商業都市郡の中心都市だっけ。
 チェインハルト商会がなんか実験を行っているとかなんとか。

 そういう土地なら医術も発達してそう。

 よし!
 そうと決まればさっそく向かおう!

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