62 リビングアーマー・バラバラ事件再び

文字数 2,699文字




〈う……〉

 どこだここ……。

 俺は何をしてたんだっけ?
 確か……。
 ロロコとクラクラと一緒に冒険者ギルドに入って。
 ドワーフの受付嬢に何か質問して。
 待ってるところに地震と魔響震が起きて。

 そうだ。
 そのせいで俺は頭が痛くなった。

 誰かにぶつかられて、身体がバラバラになって。
 なぜか元に戻すことができなくて。
 そのまま意識を失った――。

 今は……。

 頭は動く。
 他は……。

 他は……動かない。
 っていうか……。

 ないね!

 頭以外のパーツが見当たらない。
 バラバラになったまま、どっかに行ってしまったのか。

「リビたん?」
〈ロロコ!〉

 呼ばれて初めて、自分がロロコに持ち抱えられてることに気づいたぜ。

「大丈夫?」
〈ああ。なんとかな……どうなったんだ? クラクラはどこだ?〉
「クラクラとは逸れた」

 相変わらず冷静な口調でロロコは説明する。

「リビたんがバラバラになった後、ギルドの建物が崩れた」
〈マジか……〉

 そんな激しい地震だったのか。

「なんとか兜だけを抱えて外に出た」
〈じゃあ他のパーツは……〉
「わからない。腕はクラクラが持っててくれたけど」
〈そうか……〉

 じゃあ大半が瓦礫の下に埋もれてることになるのかな?
 まいったな……。

〈とりあえず、クラクラの場所を探ってみる〉

 クラクラが俺の腕を持ってるなら、それを探知すれば様子がわかるはずだ。

◆◇◆◇◆




 頭部以外のパーツに視覚を生み出すのは前にやったので、簡単にできた。

 両腕に視覚が生まれた。

〈う……重い〉

 全身(と言っても腕だけだが)になにかが乗っている感覚。

〈うおおおおお……!〉

 俺は両腕を宙に浮かし、それを避けた。

 ――ガラガラガラ。

 と、がれきが崩れた。
 どうやら、壊れたギルドの下敷きになってたらしい。
 え、ってことは……。

〈クラクラ!〉

 俺は慌てて周りを見回す。
 と。

「リビタン殿……」

 すぐ近くに倒れていたクラクラが答えた。

〈よかった、無事だったか〉
「ああ。だが、足が……」

 見れば、彼女の足ががれきに挟まれてしまっている。

〈待ってろ。これくらいならなんとかなる〉

 俺が両腕でがれきを持ち上げて、クラクラは這い出した。

〈怪我してるのか?〉
「いや……大したことはない。ただ、ちょっとひねったようで、歩きづらいが……」
〈まずは安全なところに移動しよう〉

 ギルドの残り部分がいつ崩壊するかもしれないしな。

 俺は両腕でクラクラの身体を支え、移動する。

「かたじけない」
〈いやいや、いいパーツを拾っておいてくれたおかげだぜ〉
「他のパーツは埋まってしまったのか……それに、ロロコ殿は!?」
〈ロロコは大丈夫。俺――の頭と一緒だ。他のパーツは……〉

 多分埋まってるんだろうけど。
 一応、探知してみるか。

 えっと――。

◆◇◆◇◆




 胴体(胸パーツと腰パーツ)は……。

 あれ、埋まってないな?

 誰かに着られてる。
 そしてその誰かが走ってるな。

〈あの……〉
「ひゃああああっだっ誰ですか!?」

 あ、この人、受付嬢のドワーフだ。

 受付嬢のドワーフ(長いので、ドワーフ嬢)は立ち止まってあたりを見回す。

 街の一角らしい。
 木々が立ち並んで、芝生が広がっている。
 公園というかあき地というか、そんな感じの場所だ。
 避難してきたらしい人も結構いる。

〈あの、ですね〉
「?………………よよよ、鎧が喋りましたぁああああ!」

 悲鳴をあげて、鎧を脱ぎ捨てようとするドワーフ嬢。
 しかしうまくいかない。

〈落ち着いて……危害は加えないから〉
「ひいいいぃごめんなさいごめんなさい」

 ドワーフ嬢はブルブル震えながらその場にしゃがみ込む。

「建物に潰されそうになってとっさに着ただけです。盗む気は全然なかったんです!」

 なるほど、そういうことか……。

 残りは、えっと、両脚パーツだな――。

◆◇◆◇◆



 ……右脚と左脚は別の場所にあるっぽいな。

 えっと、右脚は。

「ふぅ。ギルドに着いた途端、地震と魔響震とはツイてないな」

 ん、この声、どっかで聞いたことがあるな?

「って、なんだ。ベルトに鎧が引っかかってるな。どおりでなんか重いと思った」

 そう言って、彼はベルトに引っかかっていた俺を外した。

 ほおに傷跡を持ち、右目に眼帯をした、五十がらみの男。
 間違いない。

〈えっと……ラッカムさん〉
「おわっ!? 鎧が喋った――ひょっとして、あんた、リビタンか?」
〈正解です〉

◆◇◆◇◆



 そして最後に左脚だ。

 これはどこだ?

 やけに薄暗い場所。
 雰囲気的に地下っぽいな。
 冒険者ギルドの地下かな?
 その石造りの廊下を歩いている。

 誰が?
 俺を手に持った何者かが、だ。

 ……こいつもどっかで見たことがあるな。

 えーと。
 そうそう。ブロッケン・ウルフと戦ったとき、バカ領主の横にいた男だ。
 あのときと同じニコニコ顔で、いかにも商人って雰囲気を醸し出している。

「おや、気がつかれたようですね、リビングアーマーさん」
〈! あんた、俺のことがわかったのか〉

 あのときとは、全然違う鎧なんだけどな。

「ええ。魔力の色とでも言いますかね。それを見ればわかりますよ」
〈…………〉

 なんだろう。
 まるで敵意を感じない、むしろ安心感の漂う口調なのに。
 それがかえって、この男の不気味さを表しているように感じる。

「私はエド・チェインハルト。チェインハルト商会の会長をしております」

 チェインハルト商会……聞き覚えがあるな。
 確か、冒険書を作ったりしてるところだっけ。

〈じゃあ、地震の時も、冒険者ギルドにいたのか?〉
「ええ。あなたを待っていたのですよ」
〈俺を?〉

 なんのために?

「残念ながら、そちらの本来の目的の方は、一旦置いておきましょう」

 なんだよ、気になるじゃないか。

「それよりね、非常事態です。大事ですよこれは」
〈どういうことだ? さっきの地震が関係してるのか?〉
「ええ。それに魔響震もね。ちょっと想定外でした」
〈何が起きてるんだ?〉

 俺の問いに、エドは笑みを崩すことなく、その事実を告げた。

「――このままだと、バリガンガルドの街が滅びます」
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