51 バッター、四番、トカゲウオ

文字数 1,658文字

 トカゲウオの尻尾は、魚の尾びれみたいに平べったく広がってる。

 その尻尾で、あの野郎、俺が投げた小石を打ち返しやがった。

 おいおい。
 そんな当たり判定の広いバットとか反則じゃありません?

 なんてモンスター相手に言っても仕方ない。
 ここはルール無用の地獄甲子園。
 そもそも野球じゃないけどね。

〈くそっ〉

 俺は休まず小石を投げ続けるが、そのほとんどが打ち返されてしまう。
 こっちに飛んでこないのがせめてもの救いだ。
 尻尾バットはそこまで狙いが正確じゃないみたいだな。

 しかし、余裕が出てきたのか、また突進攻撃をしようとしてくる個体が現れる。

 ロロコがナイフや炎魔法で牽制するが、本当に牽制だけだ。
 トカゲウオどもは簡単にかわしてしまうので当たらない。

 それなら……。

〈ロロコ、魔法は抑えろ〉
「どうするの?」
〈俺が動きを止める。一体ずつ仕留めよう〉
「……わかった」

 ロロコは頷く。
 俺がどうするかはわからないだろうに。
 ずいぶん信用されてるもんだ。

 いいぜ。
 相棒の期待にはちゃんと応えてやらないとな。

〈おりゃ!〉

 俺はまた小石を拾って、腕を回転させる。

 ヒュゴ!

 バシッ!

 飛んできた小石を、トカゲウオの尻尾バットが打ち返す!
 と、見せかけて!

 がしっ!

 ――ボロボロボロボロ!?

 ふっふっふ。
 捕まえたぜ。

 俺は小石と一緒に、手甲を飛ばしたのだ。
 そして、尻尾に接触すると同時、それをつかんでやった。

〈ロロコ!〉
「ん」


「ファイア・アロー!」


 トカゲウオはそれをかわそうとするが、残念、俺ががっしり掴んでるんだな。
 炎の矢がトカゲウオを撃ち抜く!

 よし、いけるぞ!

 俺は即座に手甲を移動させ、元の通り腕パーツにはめる。
 そしてふたたび小石を拾って――。

 ヒュゴ!

 ――ボロボロボロボロ!

 警戒したのか、トカゲウオは打ち返さずにかわした。

 おーっとまた残念!
 今度は手甲は飛ばしてないんだな!
 オレはすかさず次の小石を投げつける!

 ヒュゴ!
 ビシッ!

 小石にぶつかって動きを止めるトカゲウオ。
 そこにロロコがふたたびファイア・アロー。

 やったぜ、二匹目!

 ふっふっふ。
 俺が毎回手甲を飛ばすといつから勘違いしていた?

 小石のサイズは様々だ。
 握った状態の手甲と見分けなどつかないだろう。

 くくく。
 どんどん行くぜ?

 手甲、小石、小石、手甲、手甲、小石。
 小石――と見せかけて、遅れて手甲!

 トカゲウオたちはフェイントに対応しきれず動きを止め、炎魔法に倒されていく。

 数も半分くらいに減って、残り十匹くらい。
 これならなんとかなるか。

 ん?

 ――ボロボロボロボロ!

 一匹のトカゲウオが、鳴き声とともに前に出てきた。

 他のやつより少し立派な背びれと尾びれを持ってる。
 この群れのボスだろうか?

 そいつは俺を見ると、尻尾を軽く振ってみせた。

 なんだ、勝負しようってのか?
 いいぜ。
 俺も元人間だ。
 スポーツマンシップにのっとって、正々堂々フェアプレイといこうじゃないか。

 俺は、手近な小石に近づくと、腕を回転させ――

 ――ボボボボボロロロロロロガアアアアア!!!

 ――ギャーーー!!

 いきなり大口開けて突っ込んできやがった!
 ちくしょう、フェアプレイするんじゃなかったのかよ!

 俺はとっさに身をかわす。

 すると。

 ――ボロボロボロボロ!
 ――ボロボロボロボロ!
 ――ボロボロボロボロ!

 ボスを中心にひとかたまりになって。
 トカゲウオたちは一斉に逃げ出した。

〈…………あー、びっくりした〉

 どうやら、俺たちを襲うのがわりに合わないと思ったんだろう。
 ボスは、逃げる隙をつくためのフェイントだったみたいだな。

 なんにせよ、助かった……。
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