53 エルフで姫で女騎士

文字数 2,049文字

〈こ、これは……〉
「これは?」
〈これは、エルフですか?〉
「? そうだよ」

 ロロコは不思議そうな顔でうなずいた。
 ちょ、そんな『なに言ってんのこの腕だけやろう』みたいな顔しないで!

 いやー、思わず英語の翻訳文みたいなセリフを口にしてしまったぜ。

 しかし予想はあってたらしい。

 俺とロロコのところに洞窟から水に流されてやってきた女の人。
 金色の髪の間から覗く長い耳!
 白くきれいな肌!

 エルフのイメージそのまんまだった。

 女の人とは言ったけど、見た目の年齢は16とか17とかそのくらいだ。
 転生前の俺と同じくらいってこと。
 もっとも、エルフは見た目よりずっと高年齢かもしれないな。

 で、そのエルフさんは、ぐったりと気絶している。
 俺やロロコとは違って、水に流されてる間に溺れてしまったんだろう。

「けほっ……けほっ」

 あ、目さましたな。
 よかった。

「ここは……む、何者っ!」

 エルフさん、とっさに飛び起きる。
 剣に手をかけ、警戒心丸出しだ。

 まあ、そりゃそうか。
 ダンジョンの中だもんな。

 ちなみにロロコの隣にいる俺はガン無視である。
 当たり前か。
 はたから見りゃ、鎧の腕パーツがあるようにしか見えないだろう。

 ん?
 でも俺、いま浮いてるよな。

 鎧のパーツが浮いてたら、さすがに犬耳少女より先にそっちを警戒しないか?

 あ。
 そうか。
 エルフさん、周りが見えてないんだ。

 よく見れば、ロロコとちょっとズレた方向に目を向けてる。

 そうだよな。
 ここ、真っ暗闇の洞窟だもんな。

 謎感覚でもの見てる俺や、犬並みに夜目のきくロロコとは違うんだ。

 ってことは、気配だけで、自分のそばになにかいることに気づいたってわけか。
 すごいな。

 ともかく、相手に俺たちが見えてないってのは好都合だ。

 いや、そう言うと、なんか悪いことしようとしてるみたいだけど。
 そういう意味じゃなくてね。

 俺の姿が見えないなら、警戒されずに会話ができそうってこと。

 よし。
 ちょっと会話してみよう。

〈あー、えっと〉
「!」
〈怪しいものじゃない。俺たちも、その、冒険者なんだ〉
「……その証拠は?」

 エルフさんはちょっとだけ警戒心を解いたみたいだ。
 けど、剣からは手を離さない。

〈あんたを襲うつもりならとっくにやってる〉

 こういうときによく使われる定番のセリフを言ってみた。

 実は俺、これあんまり信用できないと思ってるんだけどねー。
 襲うつもりはあるけど、なんかの都合で時期を待ってるとか。
 襲うのとは違う目的(ものを盗むとか)があるとか。

 いろいろパターンはあると思うのだ。

 けど、エルフさんはそうは思わなかったようで、剣から手を離した。

「…………それもそうだな」

 …………いいのかなー。

 いや、くどいようだけど、悪い事しようとしてるわけじゃないからね?
 相手の警戒心を解いて会話を成立させようとしてるだけだから。

 エルフさんは改まって言ってくる。

「自分は、クララ・クラリッサ・リーゼナッハ・フリエルノーラ」

 え、なんだって?

「フリエルノーラ国第三王女にして、同国騎士団の団長だ」

 え、なんだって!?

 待って待って。
 情報が多すぎて処理しきれない。
 名前……は覚えられなかったから置いておこう。

 で、ナントカ国の第三王女って言ったな。
 で、騎士団の団長?

 つまりこの少女は、エルフで姫で女騎士ってわけか。
 属性盛りすぎじゃないですかね。

「それで、そなたは何者だ」

〈えーと、俺はリビタン。冒険者だ〉

 ということにしておく。

「私は人犬族のロロコ」
「!?」

 とロロコが初めて声を出した。
 エルフさんはすごく驚いた様子。

「む、ふ、二人いるのか? 魔力は一人分かと思ったが……いや、確かに二人分あるな」

 魔力を感じ取ることができるのか。
 エルフの特性なのかな?

〈ああ、えーと、それはだな……〉

 多分オレの魔力が少なすぎるせいではないでしょうかね……。

「いや、言わなくてよい。人には事情があるものだからな」

 おーそうか。
 なんか勝手に納得してくれたので、よしとしよう。

「では、改めて、リビタン殿にロロコ殿。二人はこのような場所でなにを?」

 オレは簡単に説明する。
 ロロコとともに、バリガンガルドにある冒険者ギルドを目指していること。
 途中で増水に巻き込まれ、ここにきてしまったこと。

 ……ちなみに、町の名前は相変わらず間違えて、ロロコに訂正された。

「おお、それは奇遇ではないか!」

 とエルフさん。

〈どういうことだ?〉

「自分もそこを目指しているところなのだ」

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