2 この鎧、もろすぎじゃね?

文字数 2,570文字

 転生したら鎧になってた俺は、ガシャガシャと音を立てて倉庫みたいな部屋を出た。

 倉庫というか、物置だったのかな?
 外には、左右に廊下が続いてた。

 けっこう豪華そうな建物だ。
 ただし、かなり古びている。
 人が住まなくなって、何年も経ってるみたい。

 バラバラになってた俺を組み立ててくれた盗賊さんの姿は見当たらない。
 もう逃げ出してしまったのだろうか。

〈うーん〉

 状況を整理してみよう。
 まず俺が鎧になってることは間違いない。
 で、ここが異世界であることも間違いないだろう。

 なぜなら、さっき盗賊さんが俺を「リビングアーマー」と呼んだ。
 もう一人は「なんでこんなところにモンスターが」と言った。
 ということは、ここは、モンスターがいる世界だということだ。
 おお、なんという名推理!

 俺はリビングアーマーとして転生したってことなんだろうか?
 鑑定スキルみたいのがあれば、種族名が何になってるかとかでわかるんだろうけどな。

 問題は、俺はこれからどうすればいいのかってこっとだ。

 さっきの盗賊さんは、俺を見てビビって逃げた。
 ってことは、普通の人間はモンスターをホイホイ倒したりはできないってことだ。
 だが、うっかり強い人間に出会ってしまい、あっさり殺されたりしたらたまらん。
 鎧なんて変なもんに転生してしまったけどさ。
 あんまり早く第二の死を迎えるのも嫌だからな。

 とはいえ、いつまでも倉庫に閉じこもってるのもごめんだ。
 まずは、ここがどこなのか確認しよう。

 ミッション1! 屋敷の出口を探せ!

 っつったって、まあ、適当に歩いてりゃみつかるだろうけど――ん?

 ――チチチチチチチチチチチチ。

 なんか変な音が聞こえるな。
 下のほうだ。
 俺は頭を下に向ける。
 いちいちガシャンガシャン音が鳴るのがうるさい。
 そのうち慣れるかな。

〈――うわっ!〉

 あー、びっくりしたー。
 足元には大量のネズミがいた。
 変な音はこいつらの鳴き声だったのだ。
 ネズミって言っても、普通のサイズじゃない。
 自分が鎧なので感覚が狂ってるけど、ネコくらいのサイズはあるんじゃないか?
 いやでも、元の世界でも、東南アジアとかにはそれくらいのネズミがいるんだっけ?

 なんて考えてると、

 ――チチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチ!

 なんか鳴き声が大きくなってきた。
 数も増えてくる。
 そして、みんなして俺に体当たりしてくる。
 なかには壁や天上から体重を利用してぶつかってくるやつもいる。

 ちょっと! なんだってんだよ!

 いや、痛かったりは全然しないんだけど。
 正直、うっとうしいです。

〈このっ〉

 ブオン。
 俺は腕をふるった。
 今気づいたけど、この鎧、手がないな。
 手甲っていうんだっけ?
 それが付いてないので、手首から先がなにもない状態。
 多分、鎧単独じゃ取り付けられないんだな。
 本来なら、装着する人間が手袋みたいにはめるものだろうし。
 けど、それでも問題はまったくなかった。

 ――チュウチュウチュウチュウ!

 と、大ネズミは、ネズミなりの悲鳴をあげて吹っ飛んだ。
 おー、すごい遠くまで飛んでいった。

 なんか俺、力強くなってるね?
 身体が大きくなったから?
 いや、その理屈はおかしいか。

 とにかく、向かってくるネズミをぶんぶん吹っ飛ばしていく。
 バットでボールを打つみたいな感じだ。
 ネズミたちはめっちゃ怒ってるっぽい。
 鳴き声はどんどん大きくなるし、どんどん俺に突進してくる。
 打っても打っても、いくらでも立ち向かってくる。

 まあね?
 これが人間なら、ちょっとヤバいなって思うかもしれない。
 けど、俺、鎧だから。
 いくらぶつかられても痛くもかゆくもないし。
 ネズミに埋まって窒息死とかありえないし。
 病原菌とかの心配もないし。
 フハハハハハ! 貴様らごときがどれだけ群れになろうが、我には毛ほども効かぬわ!

 ――そう思っていたときが俺にもありました。

 なんか変だなと思ったのは、他のネズミよりちょっと大きめのやつが現れたときだ。
 大きめっつっても、ネコサイズがイヌサイズになった程度。
 それも、ゴールデンレトリバーみたいな大型犬よりだいぶ小さい。
 それくらいのやつが、ドカンドカンと俺の腹あたりを狙ってきた。

 ドカンドカン!
 ふはは、効かぬ効かぬ!
 ドカンドカンドカンドカン!
 いや、だから効かないって。もう諦めろって。
 ドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカン!

 バキバキバキバキっ。

 ――え?

 変な音がしたので、思わず見下ろした。

〈んぎゃーーーーーーーーーー!?〉

 腹に思っきし大穴が開いてるー!?

 なんで?
 うそだろ!
 ネズミの体当たりで穴が開く鎧ってなんだよ!?

 そこで俺は盗賊さんの言葉を思い出した。

『けっこう古そうだが――骨董品になるか?』

 そう。
 俺の身体は、骨董品扱いされちゃいそうなくらい古い品なのだ。
 しかもバラバラに床に置かれていたっぽいし、保存状態が良いとは言えないだろう。

 いや、にしても、ネズミにやられるなんて……。

 とかショック受けてる場合じゃない!
 さっきまでザコの群れと思っていたネズミたちが、急に恐ろしいものに見えてきた。

 ――チュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウチュウ。

 いやあの君たち、そんなにハッスルしなくていいですよ?

 ――チュウチュウチュウチュウチチチチチチチチチチヂヂヂヂヂヂヂ!

 ぎぃやああああああああああ!
 すごい勢いで一斉に俺に向かって突っ込んできたぁ!

 たぶん、俺が破壊できる対象だと認識したんだろう。
 なんて頭のいいネズミどもなんだ。
 ちくしょう、こうなったら――

 くるっ。

 逃げるが勝ちだ!
 俺は背を向けて走り出した。

 ガシャンガシャンガシャン!

 全速力である。
 くそっ。
 転生したらチートどころか、ネズミから逃げなきゃならないくらい弱いとか。
 どいうことだよー!
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