59 リビングアーマーだとバレました

文字数 1,901文字

「お、おのれ亀ども! よくもリビタン殿を!」

 怒りの声をあげて立ち止まろうとするクラクラを、ロロコが止める。

「な、なぜ止めるのだロロコ殿! そなたの仲間が殺されたのだぞ!」

 と腕に抱えた俺の兜を無念そうに抱くクラクラ。

 まあそうなるよな。
 俺がリビングアーマーだということは、クラクラには言いそびれていた。
 それで、頭が亀の空気砲で吹っ飛べば、死んだと思うだろうな。

「落ち着いて、クラクラ」

 とロロコが言う。

「リビタンは死んでない」
「死んでない? バカな! こんな状態で生きていられるわけが――」
〈あ、どうも〉
「ぎゃあああああああ!?」

 頭なしの身体で彼女と並走して、手を上げてみせると、彼女は絶叫した。

「ゆ、ゆゆゆゆ幽霊!」
〈いや、違うから〉
「落ち着いてクラクラ。リビタンはリビングアーマー」
「リリリリリビングアーマーだとっ!?」

 俺とロロコの説得に、ますます混乱していくクラクラ。

 たしかこの世界では、人間みたいに喋れるリビングアーマーはいないんだっけ?
 まあ俺だって、あの亀たちが突然しゃべりだしたらビビるもんなぁ……。

「し、死んでないならよかったが、リビタン殿がモンスターだったとはっ」

 クラクラは抱えた兜と、兜のない俺を交互に見ながら戸惑っている。

「いったい私はどうすれば……」
「とりあえず逃げる」
〈異議なし〉

 ロロコと俺は口々に告げる。
 なにしろキャノントータスは相変わらず空気砲をバカスカ撃ってきてるからな。
 クラクラも、その様子を見て頷いた。

 俺たち三人は全力疾走で森の中に飛び込んだ。

◆◇◆◇◆

「このへんまでくればもう大丈夫だろう」

 クラクラが砂浜のほうを振り返りつつ言った。

 確かにもう空気砲の攻撃はないし、亀たちも追ってはこなかった。

〈助かった……〉
「亀の肉、手に入れられなかった。残念」

 ロロコは相変わらずだな……。

〈ところでクラクラ。俺の兜を返してもらっていいか〉

 兜はずっと彼女が抱えたままだった。
 けっこうぎゅっと抱えてるので、胸の感触がずっと頭にある感じ。

「あ、わ、す、すまぬっ!」

 クラクラは兜を返してくれる。
 胸の件は気づいてないっぽいな。
 言わないでおこう。

「…………(じっ)」
〈ど、どうしたロロコ〉
「……べつに」

 ……不満そうだ。
 自分の胸が小さいのが気になるのか。
 俺が顔に出てたのか――ってそんなわけないな。
 いや、ロロコならリビングアーマーの俺の顔色もわかるかもしれない……。

「落ち着いたところで、改めて問おう。リビタン殿、そなたは何者なのだ」

 クラクラが言ってきた。
 よかった、話題がそれる。

 クラクラは言葉どおり、かなり落ち着いた様子だ。
 これなら話しても大丈夫か。

 俺はごく大雑把に自分のことを説明する。
 元は人間だったが、いろいろあってリビングアーマーになってしまった――と。

 転生やら異世界やらって話はしなかった。
 前にロロコに説明しようとしたけど、通じなかったしな。

「なるほど……」

 クラクラは俺の話を聞き終わると、そう呟いた。

〈あまり驚かないんだな〉
「いや、驚いてはいる。ただ、事実は事実として受け入れるしかなかろう」

 よかった……。
 これで『魔物め叩き斬ってやる!』とか言われたらどうしようかと思った。

「ところで、リビタン殿はやはり、人間に戻る方法を探して旅をしているのか?」
〈え……?〉

 問われて、俺は返事に窮してしまった。

 んーどうなんだろ。
 戻りたいかって言われたら人間に戻りたいとは思う。
 ただ、積極的にその方法を探すとなると、別に……って気持ちもあるな。
 どうせ異世界だし。
 この身体で困ってるわけでもないし。

 そもそも、そんなことを考える余裕が今までなかったからな。
 ずっと洞窟さまよって、魔物に追われ続けてたわけだし。

〈わかんないな……とりあえず、街に着いたら考えようと思う〉

「そうか……我らに手伝えることがあれば何でも言ってくれ」
〈わかった……なんかあったら、遠慮なく頼らせてもらうぜ〉

 ん?
 ロロコが不意に視線を動かした。
 耳もピコピコ動いてるな。

〈どうしたロロコ?〉
「音が聞こえる」
〈亀の次はなんだ? すっぽんか? トカゲか?〉
「ううん。これは――馬車の音」

 なぁんだ馬車か……。

 …………。
 ………………馬車!?

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