EX34 少年とゴーレムの話・Ⅱ

文字数 1,287文字

「ベル様。出撃の準備が整いました」

 バリガンガルドにある城にて。
 兵士がそう告げてきた。

「うん、ありがとう」

 この城の真の城主であるベルは集まった兵士たちを見渡す。

 かなりの人数の兵士が集まっていた。
 元々はゴーレムだけでガレンシア本国に攻め入ろうと考えていたのだが。
 想定外の心強い味方だった。

 バリガンガルドの市民には、すでに城主の交代を公表していた。

 街に大きな混乱は見られない。

 もともと帝国領であり、城主が代わってもその事実は変わらない。
 それにこの街には冒険者ギルドがある。
 冒険者が大勢出入りし、彼ら相手の商売で栄えている。
 それを制限するような施策を行わなければ、不満の声は上がらない。

 だからこそあの男も支配権を簡単に手に入れられたのだ。
 そう思うと少し複雑な気分にならなくもなかったが……。

 ともあれ、ベルの計画は想像以上に順調だった。

 次は、集まった兵士たちと百体のゴーレムを引き連れて本国へ向かう。
 これだけいれば制圧は容易いだろう。
 ガレンシア公爵は抵抗してくるだろうが、有無は言わせない。

 チェインハルト商会からはじきに追加のゴーレムが送られてくるはずだ。
 その数は四百。
 総勢五百の鋼の兵士たち。
 ガレンシア公爵が勝てるはずもない。

「待っていろ、ガレンシア公――いや、簒奪者ドリュマ」

 ベルは控えるゴーレムたちに命令を下す。

「進撃開始!」

 ――しかし。

『…………』

 ゴーレムが動かない。

「ん? どうした? 進撃だぞ」

『…………』

 やはりピクリとも動かない。

 つい数分前、この広場に整列させたゴーレムたちだ。
 それが突然動かなくなるとはどういうことだろう。

 そのとき。

 ぐらりと地面が揺れた。

「地震!?」

「ベル様! 危ない!」

 メイドのカタリナに呼びかけられ、上を見る。
 まるでただの石像になったみたいなゴーレムがこちらに倒れてきた。

「っ!」

 避ける暇などない。
 確実に、ベルはゴーレムの下敷きになるはずだった。

「危ないところでしたね」

「エドさん!?」

 エド・チェンハルトが手袋をはめた右手片手だけでゴーレムを支えていた。

 ベルが避けると、エドは手を離す。
 ゴーレムはそのまま倒れてしまった。

「エドさん、あなたは……」

 ベルは目を丸くして彼を見る。
 チェインハルト商会の代表であるエド・チェインハルト。
 彼に、ゴーレムを支えられるほどの力も、特殊なスキルもなかったはずだ。

「僕だって元は冒険者ですよ。これくらいはね」

「いや、それにしても……」

 エドの今の力は気になるが、今はそれどころではない。

「……とりあえずお礼を言っておきます。助かりました……それで、これはどういうことですか? 突然ゴーレムが動かなくなってしまったのですが」

「ええ。そのことについてお話ししなければと思い、飛んできたのです」

 エドはいつになく真剣な表情で頷く。

 気づけば、その傍には秘書のクーネアが立っていた。

「ゴーレムの突然の活動停止の理由。それと、ご提案を一つ」

「提案?」

「ええ。エド様にはガレンシア本国の前に、ヴォルフォニア帝国に攻め入っていただけないかと思いまして」
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