50 水陸両用トカゲウオ

文字数 1,976文字

「たすかった」

 言いながら、ロロコは頭や尻尾をブルブルブル!と振り回す。
 びっしょりの身体から水滴が飛び散った。
 おお、さすが犬っぽいな。

 俺のほうは身体が金属だからな。
 水を落とす必要もない。

 ――と。

 バシャン!

 ――ボロボロボロボロ!

 バシャン!

 ――ボロボロボロボロ!

 俺たちが流されてきた洞窟から、トカゲウオも流されてきた。

 底の浅い池に落ち、ビタンバタン暴れた末、身を起こす。
 そして、俺たちの方を睨んでくる。

 いや、そんな睨まれてもねえ……。
 ここまで流されたの、別に俺たちのせいじゃないですよ。
 あんたたちが勝手に追ってきたからじゃん。

 襲ってこなけりゃ、こっちだって反撃しなかっただろうしさー。

 まあ、単純にこの辺がこいつらの縄張りってことかもしれないな。
 その辺、モンスターと会話はできないから仕方ない。

 なんにしろ、トカゲウオたちは戦意バリバリ。
 逃げるにしても、ある程度、応戦するしかないな。

「くるなら、こい」

 ロロコが威嚇するように、ナイフを構える。

 トカゲウオたちは、一瞬ひるんだように見えたが――。

 ――ボロボロボロボロ!

 びゅおん!

〈ぬぉ!?〉
「……っ」

 四肢と尾で地面を叩き、すごい勢いで突っ込んできた。
 俺とロロコは結構ギリギリでそれをかわす。

 なにこいつら!
 地上でもこんなに素早く動けるのかよ!?

 水陸両用とか聞いてねえぞ!

 まあ、外見がトカゲ+サカナだからな……。
 それくらいできてもおかしくないか。

 しかし、そうなるとやっかいだ。
 俺とロロコが動ける分、水中よりはマシだろうけど。

 びゅおん!
 びゅおん!
 びゅおん!

 うわー!
 次々襲ってきやがった!

「……っ!」

 ロロコがナイフをふる。
 それで何匹かはしのげたが、全部は無理だ。

「ぐっ……」
〈ロロコ!〉

 一匹がまともに激突し、ロロコは吹っ飛ばされた。

 ロロコはすぐに立ち上がるが、トカゲウオたちはそれを取り囲む。

 ロロコは今度は両手を構える。


「ファイア!」


 ごう、と巨大な火の玉が出現する。
 ――が、トカゲウオたちはそれをあっさりかわしてしまった。

 いま明らかに、ロロコの構えを見て警戒してたな?
 こいつら、魔法のことわかってやがる。

 これまで戦ってきたモンスターにそんなのいなかったのに。

「やっかい」

 ロロコが小さく呟く。

〈弱点とかわからないのか?〉

 そう聞いてみるが、ロロコは首を振る。

「この辺のモンスターのことはわからない」

 そうか。
 ちょっと生活圏からズレれば、モンスターの分布はガラッと変わるんだな。

 くそっ。
 まともな鎧姿なら、もうちょっとまともに共闘できるのに。

 片腕だけなんて、なんか投げるくらいしかできねえ……。

 ……。
 …………お?

 投げる、か。
 それ、いいかも。

 俺は当たりを見回す。
 流れ込む水流でできた浅い池の周り。
 そこには、小石がゴロゴロ転がっている。

 この辺りの洞窟は硬い岩盤だ。
 とはいえ、水の力をなめてはいけない。
 雨だれ石を穿つ、なんて言うように、硬い岩でも削る力を持っている。
 つまり、これらの小石は、洞窟の岩が削られ、水流にここまで運ばれたものだ。

 ま、そんなことはどうでもいい。
 ようは、投げるのに手頃なサイズと形なら、なんでもな。

 ひょい。
〈とりゃ!〉

 ポーン。

 手近なトカゲウオに投げつける。

 ――ボロボロ?

 ダメだな。
 トカゲウオ、大して気にしてねえ。

 普通に投げるんじゃダメだ。
 支えとなる身体が無い分、どうしても勢いが弱くなる。

 よし、それなら……。

 ひょい。
〈とりゃ!〉

 ビュヒョン!
 ビシッ!

 ――ボロボロボロ!?

 よっしゃ!
 これならいけるな。

 いまやったのは、二の腕パーツを空中に固定させて、肘から先を回転させる投げ方。
 バッティングセンターの投球マシンみたいなノリだ。

 俺は肘から先を回しながら、拾う先から石を投げつける。

 ひょい。
 ビヒョン!
 ビシッ!

 ひょい。
 ビヒョン!
 ビシッ!

 だんだんコツがつかめてきたぜ。

 んじゃ、そろそろ、全力投球と行きますか。

 ひょい。

 んぐぐぐぐぐ……!

 と、俺はひねりを加えて、最速になるような角度で腕を回転。
 最適のタイミングで手を開き、小石を投げつける!

 ヒュゴッ!

 ベイン!

 …………へ?

 おいおい。
 マジかよ。

 トカゲウオの野郎。

 尻尾で打ち返しやがったぞ!
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