56 エルフのクラクラは風魔法が使えるようです

文字数 2,009文字

 ふっかぁああああああああつ!

 やっとだぜ。
 鎧が全身そろいました!

 長かった……。

 まあ、巨大狼との戦いの途中で一回フルアーマーになったけどね。
 あれとかほぼ一瞬だったし。

 なんとか全身鎧になれた。

 さて、問題は、ここからどうやってロロコとクラクラのところに戻るかだが――。

 ん?

 水が、なくなってる?

 さっきまでごうごう流れてた激流が弱まって、ちょろちょろ流れるだけになってる。
 これなら普通に歩いて渡れそう。

 ただ、歯の丈夫な魚どもが取り残されて、ビッタンバッタン跳ね回ってやがる。
 あれに喰らいつかれると厄介だな。

 俺はランプを拾い、元来た道を戻る。
 魚どもがガチガチ歯を鳴らすが、食われないよう遠回り。

 そして無事、二人のところに戻った。

 どうも、洞窟ダンジョンのこの辺は、水流のせいで不定期にルートが変わるんだな。
 気をつけないと、また流されちまう。

「おかえり」
〈おう、ただいま〉

 ロロコに答えながら、俺はクラクラにランプを渡す。

「おお! これこそ自分が落とした灯りだ! 感謝するぞ、リビタン殿」

 クラクラはそう告げ、ランプの底にあるつまみをひねった。
 すると、ランプの中で火がともる。
 普通の火――じゃないな。
 小さな魔法陣が描かれていて、その上で炎が揺れている。
 魔法具って感じか。

 ん? なんかクラクラがロロコを見て驚いてるな。

「小柄だとは思っていたが……まさかこのような子供だったとは」

 ……まあ、驚くわな。

「そなたのような幼い者が、なにゆえ冒険者ギルドを目指しているのだ」

「私は人と待ち合わせ。ギルドに用があるのはリビタンの方」

「ほう、なるほど。そなたがリビタンか。?……なにか、先ほどより魔力が強くなったような……?」

 クラクラは首をかしげる。
 さっきは腕だけだったのが、フル装備になったからな……。

〈ま、まあ、ちょっと特殊な体質でね〉

 俺は適当に告げるが、説明になってないよなぁ……。

〈そ、それより、まずは対岸に渡ろうぜ。またいつ増水するかわかんないし〉
「ふむ、そうだな」

 クラクラは頷く。
 なんとかごまかせたっぽい。

「けど、なんか魚の魔物がいっぱい。危険」

 そうなんだよな。
 水がないから動きが鈍いとはいえ、噛みつかれるだけで結構なダメージだろう。

「任せてくれ」

 お、なんだクラクラ。

「ファングフィッシュだな。水の中にいなければ、対処のしようはある」

 そう言うと、クラクラは腰に提げた剣を構える。

 剣の柄にはめ込まれた石が光を放つ。
 彼女の髪や服がふわりと浮かび上がった。

「これは、風魔法」

 ロロコが呟いた。

 クラクラはまっすぐ前を見据え、

「風よ、かりそめの形を得よ。我が刃を擬して放たれよ。其は我が願いなり――」


「ウィンドスラッシュ!」


 居合抜きのように、クラクラが剣を抜き放った。
 その刃からなにかが放たれる。

 風の塊のようなそれは前方へと走り抜ける。
 次の瞬間、ビタンバタンと暴れていた魚たちが一斉に、切り裂かれた。

〈おお!〉

 すごい威力だ。

 ロロコが解説してくれる。

「今のは詠唱を使う正式な魔法。私は使えない」

 そういやロロコはいつも詠唱なしで放ってるもんな。

「騎士団に魔法使いがいるからな。あまり得手ではないが、この程度は使いこなせる」

〈いや、大したもんだぜ〉

 俺なんか魔法使える可能性、皆無っぽいし。

「褒められるようなものではない……さて」

 と言いながらクラクラは歩き出す。
 向こう岸に向かう――のかと思いきや、さっきの剣の代わりに腰のナイフを抜いた。
 そしてそれを手近のファングフィッシュに突き立てる。

〈ん? どうした。まだ生きてたのか?〉
「そうではない。食料補給だ。ファングフィッシュはなかなか美味だぞ」
「美味?」

 あ、ロロコが食いついた。

◆◇◆◇◆

 クラクラはナイフでファングフィッシュをさばいていく。

 ファングフィッシュは表面の鱗はめちゃくちゃ硬い。
 が、中身は柔らかく、また生で食べることも可能のようだ。

 鱗を外し、なかの肉を切り出し、骨を取り除く。
 ファングフィッシュのお刺身の出来上がりだ。

「生魚なのに、生臭くない。すごい」
「だろう? 栄養も豊富だぞ。王国では貴重な食料源なんだ」

 ロロコとクラクラは仲よさそうに魚を食べてる。
 ロロコが串に刺し、炎魔法で焼き魚にしたりもしてる。

「リビタン殿もどうだ?」
〈あ、ああ、いや、俺は大丈夫だ〉

 ちくしょう、食事のときは毎回、リビングアーマーであることが悔やまれるぜ。

 仕方ないので俺は、ステータスの確認でもしてるか。
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