228 ヴォルフォニア帝国第十五代皇帝フィルシオール十七世

文字数 1,203文字

〈ぐぐぐぐ……〉

「うぁあっ……!」

〈ぬぬぬぬぬ……!〉

「くぅうっ……!」

 俺が拡散する魔力に当てられて、魔族たちはどんどん気を失っていく。
 その範囲は俺を中心に同心円状に広がっていく。

 すごく頑張っているように見えるだろうけど、実際にすごく頑張っている。
 魔力が出過ぎないようにね!

 なにしろ量も範囲もかなり絞らないといけない。
 量が多すぎると魔族たちが気絶じゃ済まなくなりそうだし。
 範囲が広すぎると関係ない魔物とか呼び集めちゃいそうだし。

 どんなに強い力があってもそうそう万能とはいかないようだ。

 で、魔力を放出しつつ俺は6000体のマジカルアーマーを操る。
 手が足りないところを手伝って気絶した魔族を拘束していく。
 あとまだ暴れている魔族を取り押さえたり。
 崩落した山の危険なところを修復したり。

 大騒ぎだ。
 おかげでエドと魔王を捜索する余裕なんかない。

 けど、そっちはしばらく放置しても大丈夫だろう。

 エドの目的を達成するためには俺が必要だ。
 俺を吸収しなければクーネアさんは魔王として完成しないわけだからな。

 と、そんな感じで魔族への対処を続けていると、動揺の声が聞こえた。

「まさか……」
「陛下……!」

 陛下?

 って魔王陛下?
 なわけはない。

 ここにいる人間が陛下と呼ぶ人間といえば一人しかいない。

 俺はロロコとクラクラと一緒にそちらへ向かった。

「そなたが噂のリビングアーマー……リビタンか」

 そこには一人の男が立っていた。
 元は豪奢だったのだろう、ボロボロの装束を身にまとっている。
 威光がなければごく普通の男にしか見えない。
 それでもそれが誰なのか、周りの人々の反応から知ることができた。

〈あなたは、ヴォルフォニア帝国の皇帝陛下ですね?〉

「まあ、まだ退位はさせられていないからな」

 フィルシオール十七世はそう言って、寂しそうに笑った。

◆◇◆◇◆

 俺たちは皇帝陛下を連れて元帝都に戻った。

 あ、元帝都っていっても廃都ダンジョンのことじゃないよ。
 俺たちが拠点にしてるガルアシラ・ヴォルフォンシアガルドのこと。
 廃都ダンジョン=ガルシラは旧帝都と呼ばれることが多いようだ。

 ……どっちにしろややこしいな。

 魔族の対処はマジカルアーマーたちに任せることにした。
 人員はほかにもたくさんいるので大丈夫だろう。

 で、元市庁舎の一室に集まった俺たち。
 特に誰もなにも言わなかったけど、自然と皇帝陛下を上座に座らせる。

 大勢に見られ、それでも臆することがないのはさすが統治者といったところか。
 敵陣だというのにこの落ち着きぶりもすごい。

 いや、違うかな。
 これはなんか色々諦めてる感じだ。
 自分がここで殺されても構わないと思ってる。
 そんなふうに見える。

〈……それで、皇帝陛下がなんの用でこんなところまで?〉

 俺の問いかけに小さく頷き、皇帝陛下は言ってくる。

「頼みがあって来た。ライレンシアを救ってほしい」
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