139 この世界には魔王がいるの?

文字数 1,950文字

 どうも、リビングアーマーの俺です。
 チェインハルト商会に依頼されて忍者を追っていた俺たち。

 ようやく捕まえた忍者のヒナワ(と名乗った)はとんでもない話をしてきた。

 フィオンティアーナ郊外に建つ、チェインハルト商会の研究施設。
 あの建物の地下には、広大な空間が広がっている。
 そしてそこには、巨大な化け物が安置されている、というのだ。

〈化け物? モンスターってことか?〉

「あんなモンスターは見たことがない。そもそも生物なのかどうかもわからなかった。とにかく巨大な、肉の塊だ」

 そいつはたくさんの装置に繋がれて、ゆっくりと呼吸していた。
 そして、エドはそいつにこう呼びかけていたのだという。

『ご機嫌いかがですか、魔王陛下』

 魔王陛下。

 魔王!

 え、なにそれ!
 聞いてないんだけど。
 この世界、魔王なんているの?

 いや、まあたしかに。
 魔法があって。
 モンスターがいて。
 冒険者ギルドがあって。
 獣人がいて。
 エルフがいて。
 ドワーフがいて。
 ドラゴンがいて。
 ゴブリンがいて。
 魔王がいたって全然おかしくなさそうだけどさ。

 じゃあ先に魔族とかも出といてくれよ。
 突然魔王とか言われたら驚いちゃうじゃんか。

「なるほど……あの魔力は、そういうわけか」

 ドグラはなんだか納得したように頷いている。

 そういえば彼女、あの建物に禍々しい魔力を感じるとか言ってたな。
 それにエド自身にも危険を感じているみたいだった。

〈なあ、魔王ってなんだ?〉

 俺はロロコに問いかける。

「知らない」

 え、知らないの。

 あ、そうか。
 ロロコはそもそも人犬族の村で暮らしてたからな。
 その周辺以外のことはよく知らなくてもおかしくない。

「えっと、クラクラなら知ってるか」

「いや、知らんな」

「え? じゃあアルメルは?」

「私も聞いたことはありません」

 え、マジで。

 じゃあ知ってるのドグラだけってことじゃん。

〈ドグラ、魔王って何者なんだ?〉

 俺は問いかける。

 魔王――やっぱり魔族の王様とかだろうか。
 闇の力を持っていて、この世界を滅ぼそうとしていたのとか。

 しかし、ドグラの答えはちょっと違っていた。

「魔王とは、太古に存在したと言われる『魔力の源』じゃ」

 ……ほう?

「この世界は物質と魔力の二層構造になっておる。そのうち物質は造物主たる神々が生み出した。しかしそれだけでは世界は動き出さなかった。そこで神々は魔王を創り、魔王から生み出される魔力でこの世界を満たしたのじゃ」

 ……ほうほう?

「世界を魔力で満たした魔王は役目を終え、神々によってどこかに隠された。だが、世界の終わりにはふたたび姿を現し、この世界の魔力を全て飲み込むのだ……とドラゴンの間の古い伝承にある」

 ……なんか、話が急に壮大になったぞ。
 神々とか世界の終わりとか、神話みたいだ。

「むろん、魔王の姿を見たものなどドラゴン族にもおらん。だからこの伝承は信じられておらんし、人間どもの間でも廃れていったのだろう」

 なるほど。

「待て」

 ん?
 ヒナワが妙な表情をしているぞ。

「拙者たちの里に伝わる話とはずいぶん違うぞ」

 え、どういうこと?

「ヤマトの里では、魔王とは魔族を率いる王で、原初の魔法使いヘルメスに倒されたと言われている」

 ん……こっちはスタンダードな魔王っぽい話だな。
 そしてまた出てきたヘルメス。

 ほんと色々やってる人だな……。

 しかしどういうことなんだろう。
 どっちが本当の話なんだ?

 なんて検証するのはこの場では無理だろう。
 そして、どっちにしろ、エドがヤバいものを持ってるのはたしか。
 疑問がいっぱいなのもたしかだ。

 ヒナワが見たっていう肉の塊は本当に魔王なのか?
 エドはどこでそれを見つけたんだ?
 それに、そんなもの研究して、エドはなにをしようってんだ?

 これは確かに、あいつの味方なんかして大丈夫か? って気分になってくるな。

 話が急にデカくなりすぎて、全員しばらく考え込んでしまう。

 そのときだ。

 ――ごごごごごごごごごごご……。

 なんだか不気味な地響きが聞こえてきた。

 なんか嫌な予感がするなぁ。
 こういう音が聞こえてきたとき、だいたい次のパターンは決まってるんだよなぁ。

〈なんかやばそうだ。とりあえず地上に出よう〉

 俺たちは地下水道から梯子を伝って街に出た。

 そのとたん、住民の叫び声が耳に飛び込んだ。

「オークだ! オークの群れが襲ってきたぞぉ!」

 ほらやっぱり!
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