43 フル・リビングアーマー無双

文字数 2,225文字

 じゃじゃじゃじゃーん!

 俺、フルアーマーモード!

 完璧にそろえたぜ。
 兜。
 肩パーツ。
 右腕。
 左腕。
 胴体。
 腰。
 脚周り。
 右脚。
 左脚。

 ついでに武器もな。
 右手に剣。
 左手にハンマー。

 とにかく、狼の腹ん中にあった装備を組み合わせて、最強の武装にしてみました。

 よっしゃ!
 それじゃ脱出!

 消化器官の出口から飛び出して、とにかく上のほうへ移動していく。

 垂直!
 登りにくい!

 仕方ないな。
 分離!

 鎧パーツをバラして、それぞれを浮かせて移動する。

 ふっふ~ん。
 いまの俺ならこれくらい余裕なんだぜ。

 お、なんか明るくなってきたぞ。

 出た!

 外だ!

 よかった。
 口のほうから出られたみたいだ。

 合体しつつ、周りの状況を確認――

〈――なんだよ、これ〉

 確認して、俺は思わず呟いちまった。

 巨大狼の居場所が少し移動してた。
 崖と岩山に挟まれた、狭い空き地だ。

 そこには、狼と一緒に、人犬族たちも押し込まれている。

 で、岩山の上に領主の部下の兵士たちが立って、武器を構えてる。
 狼を攻撃してるのかと思ったら、そうじゃない。

 人犬族たちが岩山を登ってこられないようにしてるんだ。

 人犬族たちは逃げ場がなくて、狼に食われるか、崖を飛び降りるしかない。

 おいおいおいおい。
 ふざけんなよ。

「ふっはっはっはっは!」

 バカ笑いが聞こえた。
 岩山の上の領主だ。

「バカだなラッカム! お前、犬どもと一緒に死ぬ気かぁ?」

 ラッカム?
 どっかで聞いた名前だな。

 そうだそうだ。
 ロロコが、いろいろ教えてもらってたっていうおっさんだ。

 みれば、人犬族たちの中に、一人だけ普通の人間がいる。
 眼帯を付けた傭兵っぽい渋いおっさんだ。
 あの人がラッカムだったのか。

 ラッカムは、人犬族たちを守るように、狼と対峙してる。

 つっても、勝負になんかならねえだろ。
 持ってるのは、剣一本。
 そもそも、サイズが違いすぎる。

 で、そのラッカムさん。
 俺のほう見て目を丸くしてる。

 そりゃそうか。
 突然狼の口から、鎧パーツが次々飛び出して合体始めたら驚くわ。

 人犬族たちもラッカムさんと同じような顔してる。

 領主が気づいてないのは、狼が邪魔で俺の姿が見えてないからか。

 んで……。
 ロロコは……無事だな。
 人犬族たちを庇うように、ラッカムの斜め後ろに立ってる。

 よかった。

 もう心配いらないぞ。
 俺がこいつを、ぶっ倒すからな!

〈おりゃあああああああああ!〉

 狼さんよ!
 突然自分の口からなんか飛び出してびっくりしてるとこ悪いけど!
 さっさと決めさせてもらうぜ!

 ――ばすん!

 まずは、ハンマーで鼻先をぶっ叩く。

 ――ギャオオオオオオオオオオン!?

 一歩身を引く狼。

 逃がすかよ!

 剣を振り下ろして、脳天をかち割ってやる!

 と思ったら、狼は後退してそれをかわした。

 ちっ。
 意外と素早いな。

 ――ガウゥッ!

 おっと!

 噛みつかれかけて、今度は俺がかわす。

 といってもただ身を引いたわけじゃないぜ。
 パーツを分離させてバラバラになったんだ。

 そしてそのまま、各パーツで狼の各所を攻撃!

 兜+肩パーツは耳。
 剣を持った右腕は顔。
 ハンマーを持った左腕は右前脚。
 胴体は左前脚。
 左右の脚はそれぞれ後ろ脚を攻撃。

 おりゃおりゃおりゃおりゃ!

 どうした狼さん?
 動きが鈍いぜ!

 すげえな、こんなに余裕もって戦ってるの初めてじゃないかな?
 今まではほとんど、逃げるための戦いだったしな。

 無双たのしー!

 っつーても、相手は狼一匹だけどね。

 まあいい。
 楽しんでる場合でもないしな。

〈ロロコ!〉

 呼びかける。
 と、ロロコは小さく頷いた。
 もう、俺だってわかってたみたいだな。

〈炎魔法で攻撃だ! こいつ、倒すぞ!〉
「わかった」

 迷わず答えるロロコ。
 頼もしいね。

 横ではラッカムのおっさんが目を丸くしてる。

「しゃべるリビングアーマー……? 本当にいやがったのか」

 ん?
 なんか俺のこと知ってたっぽい口ぶりだな。

 ま、いいや。
 いまはこの狼を倒すのが先決だ。

 ロロコが魔法の構えをとる。


「ファイア!」


 火球が放たれ、狼の腹にぶち当たる。

 ――ギャオオオオオオオオオン!

 巨大狼でも、火は熱かろう。


「ファイア・アロー!」


 ――ビヒュン!

 今度は火で作られた矢が何本も狼を襲う。

 ――グロロロオオオオオオオオンッ!
 
 いいぞいいぞ!
 きいてる!

 おっと!
 ロロコを狙うのはダメだぜ、狼さんよ!

 ハンマーで鼻先をぶっ叩く。

 ――グロロロロロロロロ……。

 お?
 さすがにビビってきたかな?

 と思ったら――。

 ――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

〈うわっ!?〉

 めっちゃでかい遠吠えだな!

 くそ、なんかクラクラするぜ。

 ――びしっ。

 びしっ?
 なんの音だ?

 …………。

 ぎょわー!
 鎧にめっちゃヒビ入ってる!?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み