155 魔王が消えた?

文字数 1,252文字

 どうも、リビングアーマーの俺です。

 フィオンティアーナ近郊にあるチェインハルト商会の実験施設。
 その地下に向かう階段を俺たちは降りていた。

 先頭に立つのは秘書のクーネアさん。

 先ほど彼女は、クノイチのヒナワに問い詰められた。
 この施設に保管されている謎の肉塊について。

 それをエドは『魔王陛下』と呼んでいたらしい。

 ドラゴン娘のドグラによれば……。
 魔王とは、この世界に満ちている魔力の源のことらしい。

 一方ヒナワの出身地ヤマトの里の伝承によれば……。
 魔王は、原初の魔法使いヘルメスに倒された、魔族の長のことらしい。

 どっちの伝承が正解なのかはよくわからないが……。
 どちらにしろ、そんなものを隠し持っている商会は怪しい、というわけだ。

 しかしクーネアさんは落ち着いてるな。
 まあ、この人はわりといつでもクールな感じだけど。

 すでに言い訳を用意してあるのだろうか。

 あ、もしかして俺たち全員始末するつもりだったり……!

 と思い至ったところで、クーネアさんが立ち止まった。

「ご覧ください」
 どうやらすでに到着していたらしい。

 俺たちはクーネアさんの示す方向に目を向ける。

 巨大な地下空間。
 よくわからない機械が大量に置かれている。
 職員がそれらを操作して、なにか作業をしている様子だ。

 そしてその中央には——

「なにもない……?」

 ヒナワが愕然とした様子で呻いた。

「はい、なにもございません」

 クーネアさんが淡々と答える。

「ば、バカな……そんなはずはない! 拙者はたしかに見たのだ。巨大な肉塊がここに置かれていて、いくつもの配線で繋がれていて、エドがそれに向かって『魔王陛下』と呼びかけていたのだ!」

「ですが、ないものはないのです」

「…………」

 さすがに沈黙するヒナワ。

 ……いやいや。
 いやいやいやいや!

 俺もさすがにこれで『ないんじゃん! ヒナワの嘘つき!』とはなりませんよ。

 そもそも前にここに来たとき、ドグラがめっちゃ怪しんでたからね。
 まあ、彼女が警戒していたのはエド自身だったけど。
 それでも、彼がなにか隠しているのは間違いない。

 クーネアさんが言ってくる。

「ここである実験をしていたのは事実ですが、それは皆様にお渡しした高純度の魔鉱石を取り外すために、中止いたしました」

〈なんの実験をしてたんですか? 前に、見せてくれるって言ってましたよね?〉

 フリエルノーラ国にいたときの話だ。
 商業都市群で大規模な計画を進行中とかなんとか。
 俺は忘れてないぜ。

「お話ししてもよろしいのですが、長くなってしまいます。よろしいのですか? ラファ様に魔鉱石を届けなくてはいけないのではありませんか?」

〈…………そうですね〉

 明らかに話を逸らされた。

 けど、クーネアさんの言うとおりだった。

 今はラファを助けるのが最優先だ。

 俺たちはチェインハルト商会の実験施設を後にした。

 ちなみにヒナワは放免ということになった。

 俺たちを逃亡者探しに行かせたのは、完全に魔王をどこかに隠すための時間稼ぎだったっぽいな……。
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