93 冒険書通信

文字数 1,437文字

〈あーあー、聞こえますか、聞こえますか。こちらリビタン、どうぞ?〉

『はい。聞こえますよ。っていうかななんですかその口調?』

 トランシーバーごっこだよ!
 いっぺんやってみたかっただけだよ!

 ……どうも、リビングアーマーの俺です。
 一緒にいるのはドワーフっ娘のラファ。

 そして冒険書から聞こえる声はドワーフ嬢のアルメルだ。

『リビタン、大丈夫?』

 お、ロロコの声も聞こえた。

〈ああ、こっちは二人とも無事だ。そっちは?〉
『怪我はしてない』
〈よかった……〉

 あの大爆発でよく無事だったな……。

〈じゃあ本題に入ろう〉

 あの火薬はなんだったのかとかいろいろ聞きたいことはある。
 けど今はいつ通信が途切れるかわからない。

 なにしろこの冒険書を使った通信、あまり安定していないのだ。

 使い方としては簡単。
 片方の手で背表紙の魔鉱石に触れる。
 で、パーティメンバーのページを開けば通信ができる。

 しかし魔力が弱いのか、通信はちょっと途切れ途切れで声が飛びがちだった。
 ワイファイが充実してないみたいな感じ。

 たぶん、新型の腕輪型冒険書だったらそんなこともなかったんだろうけど。
 まあしょうがないな。

 ともかくそんなわけで、通信が途切れる前にこれからの方針を決めなくちゃ。

「二人は今どんな場所にいる? 前にいた場所より広い? 狭い?」

 ラファが問いかける。
 俺より彼女の方がこのダンジョンに詳しいからな。

『前よりは広い場所ですね』

 ちなみにここは狭い。

『芋虫がたくさんいた場所に似た空間です。ただ、モンスターは全然いません』

「あ、じゃあそこは遠回りの方だね」

 遠回り。
 近道だけど危険なルートと遠回りだけど安全なルートの二択なわけだけど。
 その安全な方ってわけだな。

「そこから上に向かう道で、より湿ってる方に向かって。そうすれば海底を通って孤島まで行けるから」

『湿ってるって……そんなのどうやって』
『大丈夫。私、わかる』

 困惑するアルメルの横からロロコが言う。
 さすが人犬族だな。

「私たちも島に向かうよ。島の地上に出たらそこで待ってて」

 うん。
 地上に出たら通信も安定するだろう。
 そうしたら会話しながら合流もできる。

『わか……た――リビ……ン、気を――けて――』

 ロロコの声が途切れ途切れになる。
 通信が切れそうだ。

〈ああ! そっちもな!〉

 俺は慌ててそう答える。
 通じたかどうかはわからないけど。

 やがて通信は途切れてしまった。

 まあ、これだけやりとりできりゃ上出来だろう。

〈さて、あっちはなんとかなりそうだけど、問題は俺たちだな〉
「うん。どうしようかねー」

 ラファによると、ここからドラゴンの巣のある島までには三つの難関がある。

 一つ。
 ケイヴ・スネークの群生地。
 二つ。
 ビッグ・ポイズンスラッグの巣。
 三つ。
 マギ・リザード・フィッシュの狩場。

 一つとしてロクな響きじゃないね。

 ちなみにここから引き返すのはさらにオススメできないらしい。

「ビッグ・ポイズンスラッグは昔はこの辺にも住んでてね。引き返したら、その毒の池の中を泳いで通らなきゃいけない。たぶんその鎧、一瞬で溶けるよ」

 はい。
 そんなわけで、進むも地獄、戻るも地獄。
 だったらまだマシな方に進むしかないよなぁ……。
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