25 ワームとネズミと追いかけっこ

文字数 2,181文字

 毎度おなじみ、逃げ回るリビングアーマーの俺と犬耳っ娘のロロコだ。

 今回の相手は大ネズミ集団――というより、それを追うダークネス・ワーム。

 ワームといえば、ファンタジーじゃ定番だ。
 ミミズみたいな身体に丸い口。
 口の周りには牙みたいな歯。
 そしてでかい。

 いま俺たちを追ってきてるやつも、洞窟をびっしりふさぐくらいにでかい。
 長さはどのくらいかわからんな。

「もしかしたら」

 ロロコが言う。
 
「この辺の穴はみんな、あいつが開けたのかも」
〈え、マジかよ〉
「ダークネスワームは、地中に穴を掘って唾液で固めて道を作る」

 うえー。
 じゃあこの地面も壁も、あいつのよだれまみれなのかよ。

「それで、獲物が迷い込んだら食べる」

 なるほど。
 で、後ろの大ネズミたちみたいな目に遭うわけか。
 ネズミたち、最初に見た時より、半分くらいに減ってる。
 だいぶ食われたんだろうな。

 って、俺らも他人事じゃないんだけどな!

 ワームとしちゃ、自分で作った穴がどうなってるか熟知してるわけだ。
 いい食料確保方法だな、まったく!

「時間が経つと形が変わるダンジョン、あったね」
〈別に嬉しくないけどな!〉

 親指立ててグッジョブ!みたいなことしなくていいから!
 余裕だな!

〈あいつには炎魔法とか効かないのか?〉
「魔法も物理攻撃も効く」

 なぁんだ。
 じゃあさっさと倒しちゃえばいいんじゃん。

「でもHPがムダに多い。倒すのにすごく時間がかかる」

 ダメじゃん!
 その間に俺ら追いつかれて喰われちゃうよ!

 くっそー。
 とにかく逃げ続けるしかないってのか。

「あ」
〈どうした――ぬぉ!?〉

 ぎゃー!
 行き止まりだ!

 しまった、さっきあった分かれ道で右に行けばよかった。

 いまから戻るか?
 まだ、ギリギリ間に合うかも……。

 …………そうだ!

 上半身と下半身分離!
 なかから、束にしてまとめておいた鱗状鎧パーツを取り出す。
 俺の身体として認識されてるので、自由に動かせる金属板だ。

 いっけー!

 シュピンシュピンシュピン。

 金属板が飛んでいき、分かれ道のところに壁を作っていく。

 あっという間に、俺たちが入り込んだ袋小路への入り口をふさいだ。
 ふっふっふ。
 これぞ忍法鎧壁隠れの術!

 いや、隠れてないけどね。
 人間相手だったら普通にバレるだろうけど。
 相手は逃走中のネズミと、それを追うワームだ。
 わざわざこっちに来ようとは思わないはず。

〈ロロコ! 板を押さえてくれ!〉
「りょうかい」

 二人で鎧で作った壁を押さえる。

 ドカンドカンドカン!

 と、ネズミたちがぶつかってるのがわかる。
 けど、思ったとおり、こっちに突っ込んでこようというつもりはないみたいだ。
 曲がりきれずにぶつかってるだけだろう。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。

 と、今度は地下鉄でも通過したみたいな音。
 今のがダークネス・ワームだろう。

 ……ふぅ。
 なんとかうまくいったか。

『モンスターの情報が追加されました』

 ん?
 冒険書がなんか言ってるな。

 モンスター情報が追加って――別になにも倒してないけど。

 ああ。
 そうか。

 大ネズミがダークネス・ワームに食われたのが、そういう扱いになったのか。

 レベルが上がらないのは、それほど魔力を持ってるモンスターじゃないってことかな。

 近くで死んだモンスターは倒した扱いで経験値ゲットってやっぱ変な感じだな。
 まあ、ありがたいけどさ。

 大ネズミの情報は後でチェックすればいいや。
 それより、今はワームが気になる。

〈なあロロコ。ワームって、一体で行動してるのか?〉
「詳しくは知らない。けど、モンスターも生物だから」
〈だよなぁ〉

 この世界のモンスターは魔力が多い動物ってだけだ。
 交尾して子供を増やしもするだろう。
 ってことは、近くに、他にもワームがいるかもしれんってことだな。

「そうなる」
〈なんか、ワームの弱点とか知らないか?〉

 さっきはたまたま分かれ道で逃げられたけど、今度もうまくいくとは限らない。
 移動するにしても、なにか考えておかないと。

「うーん」

 腕を組んで考え込むロロコ。

「ワームのことはあまりよく知らない。美味しくないらしいから」

 あ、詳しくないのはそういう理由だったの?

「あ」
〈お、なんか思い出したか?〉
「前にラッカムのおじさんが言ってた」

 出ました、ラッカムさん情報!

「ダークネス・ワームは、口の横の鼻で方向を探ってる」
〈ふむふむ〉
「鼻を塞ぐと、方向感覚がなくなって、自然と真上に向かって掘り進むって」
〈へー〉
「子供のころ、プチ・ワームを捕まえてそれで遊んだって」
〈へー……〉

 や、ちょっとよくわからない趣味だわー。
 いまでこそダンジョンで虫と戯れてるリビングアーマーですけど。
 転生前の俺ってば、立派なインドア派だったからね。

 ……ん?
 真上にだって。

〈なあ、ロロコ……〉
「うん」

 ロロコのほうも、自分で言ってて気づいたようだった。

 その性質、使えるんじゃね?
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