58 なんだ、ただの亀か……ぎゃあああ!

文字数 2,314文字

 リビングアーマーの俺。
 人犬族のロロコ。
 エルフの姫で女騎士のクラクラ。
 三人は洞窟ダンジョンを脱出し、砂浜に出た。

「ライレンシア湖だな。この湖の北端のほとりにバリガンガルドがある」

 クラクラが言う。

 ってことは、ここはもうヴォルフォニア帝国なのか。

 っていうかこれ湖だったのね。
 あまりにもでかいから海かと思ったぜ。

 で、その海かと思うような湖のほとりに、大量の亀がいた。

 現代日本でいうリクガメサイズ。
 人が乗れる大きさだ。
 甲羅に筒みたいな形の出っ張りがある以外は、普通の亀に見える。

 それが、浜辺に大量にいた。
 多分、百匹は超えるだろう。

 そんな光景を見て、クラクラは呟いた。

「……まずいな」

〈? なにがだ。ここはもうダンジョンの外だろ〉

 ってことは、あの亀たちもモンスターじゃなくて普通の生物じゃないのか?

「いや、間違われやすいのだが」

 とクラクラが解説してくる。

「大洞窟ダンジョンとは、洞窟と、その周辺地域の一部を指す」
〈え〉
「ライレンシア湖のほとりの南半分は、ダンジョン領域とされている」
〈ってことは……〉
「あいつらもモンスターだ」

 なにぃぃぃ!?

 そういえば、前もダンジョンの外のはずの森でカエルの魔物に遭遇したな。
 そういう感じか。

「あれはキャノントータスだ」
「キャノン?」

 クラクラの言葉に、ロロコが首をかしげる。

 おいおい、なんか不穏な単語が出てきたぞ。

「基本的におとなしいが、テリトリーに侵入されると攻撃してくる」
「じゃあ、早くここを離れよう」
「そうだな」
〈うん〉

 俺たちは頷きあうと、そうっとその場から移動する。

 ――ガシャンガシャンガシャン。

 洞窟の出口から、湖と反対方向に移動すると、砂浜の向こうに森が見える。
 あの辺にはカメはいないようだ。
 そこまでたどり着けば一安心だろう。

 ――ガシャンガシャンガシャン。

 そうっと、そうっと……。

 ――ガシャンガシャンガシャン。

 ――ブモオオオオオオオオオオ!

 ぎゃーーーーー!

 カメたちがこちらに気づいた。
 すんません!
 間違いなく俺のせいです!

「走るぞ!」

 クラクラが叫び、俺たちは駆け出した。

 ――ブモオオオオオオオオオオ!
 ――ブモオオオオオオオオオオ!
 ――ブモオオオオオオオオオオ!

 ん?

 待てよ。
 あのカメたち、めっちゃ遅くね?

 のそ………………のそ………………。

 ――ってくらいのペース。
 人間が普通に歩くのより遅い。

 なぁんだ。
 これなら追いつかれるわけがない。
 焦ることないじゃないか――。

 ――どがごおおおおおおおおおおおおおん!

 ファッ!?

 俺たちが向かってる、前方の森の木が吹き飛んだ。

 結構でかい木だ。
 高さも5、6メートルくらいあったんじゃないか。

 それが、真ん中あたりに大穴が開いて、それより上がばっきりブチ折れた。
 轟音を立てながら周りの木々をなぎ倒していく。

「今のは?」

 ロロコが落ち着いた声で問うのに、クラクラが答える。

「キャノントータスの攻撃だ。背中の甲羅から空気の塊を放ったのだな」

 ぬおおおおおお何だそりゃ!

 いや、名前聞いたときからそんな予感はしてたけどさ!
 甲羅にあからさまに筒状の出っ張りがあるしな!

 にしても威力が頭おかしい。
 あんなのくらったら一撃でアウトじゃねえか?

 ――ブモオオオオオオオオオオ!
 ――ブモオオオオオオオオオオ!
 ――ブモオオオオオオオオオオ!

 どごんどごんどごんどごん!!

 げ、あいつら連発してきやがった。

 連発っていうか、時間差攻撃?
 お互いに連携をはかって途切れないように撃ってるっぽい。
 1匹1匹は連射できないっぽいな。

 俺たちはジグザグ、かつ三人バラバラに動くことで、なんとかそれをかわす。

 岩が爆散したり、砂浜に大穴が開いたり、あたりはえらいことになってる。

 森まであと100メートルはあるか?

 ちょっとヤバくないか。

〈逃げるより、あいつら倒した方がよくないか!?〉

 提案してみる。
 クラクラはちょっと考え込んでから、

「キャノントータスは腹部分が弱点だ。そこをロロコ殿の炎魔法で攻撃すれば……」
〈おお、いいじゃねえか〉
「むり。隙間がほとんどない」

 ……ロロコの言う通りだな。

 あいつら、体重が重いのか、足が砂地に沈んでる。
 腹はほとんど地面にくっついてるんだ。

〈クラクラ。風魔法であいつら引っくり返せねえのか?〉
「む。できるが、あの巨体を動かすには、一体ずつになるぞ」

 そうか……。
 そうなると、その間クラクラが危険だな……。

 やっぱ逃げるしかないか――。

 ――どがごおおおおんっ!

 ぬぉっ!?
 すげえ近くに撃たれたな!

 ――すぽーん。

 ん?
 なんか妙な感触。

 あと視界がぐるぐる回ってるぞ。

 ――ぽん。

 と、どこかに乗っかったような感触。

〈…………〉
「…………」

 クラクラと超至近距離で目が合う。

 これは……。

 どうやら、鎧の兜だけがキャノントータスの砲撃の爆風で吹っ飛んだらしい。
 そしてそれを、クラクラがうまい具合にキャッチしてくれたってわけだ。

 あ、これって……。

「ぎゃあああああリビタン殿の首がああああああ!!」

 クラクラが絶叫した。
 まあそうなるよな……。
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