220 エドの目的

文字数 982文字

 ロロコを治療し終えた俺は、エドと向き合った。

 エドの背後には怪しく脈動する肉塊がある。
 あれが魔王の肉片だろう。

「素晴らしい!」

 エドは場違いに明るい声で言ってくる。

「世界中の魔力と接続し、あらゆる術式を体得し、回帰魔法も実現させた。これであなたは名実ともに、魔王の再来となった」

〈なに言ってんだ?〉

 回帰魔法?
 魔王の再来?

 いや、そんな単語の訳のわからなさよりも。
 エドの、余裕な態度が不快だった。

 まるで全てを自分が仕組んでいるかのような。
 全てが自分の手のひらの上であるかのような。

 そんな態度だ。

「そうですよ。あれほどの傷を、今ほどの短時間で治すなど、通常の回復魔法で行うなど不可能です。あなたは大切な彼女を治すために最適な術式を、自分が知りうる中から選び出して使った。それは回復魔法ではなく、回帰魔法――因果をねじ曲げ状況そのものを前段階へと回帰させる魔法です」

 ほーん……?

〈ま、なんでもいいよ。ロロコが助かったんなら〉

 それに、あんたをぶっ飛ばすことにも変わりはないんだし。

「そうですか? 回帰魔法を扱うことができるのは魔王だけだとしても?」

〈…………〉

 魔王の再来ってのはそういう意味か。

〈だとしても知ったことじゃないな。俺は魔族の王様になんてなる気はない。魔王と同じような体質になったからって、魔王と同じように生きなきゃいけない理由なんてないだろ〉

「もちろんです。僕もそんなことは望んじゃいませんよ。僕の目的はもっと有益なことです」

〈この世界をこんなに引っ掻き回しといて、有益もないもんだと思うけど〉

「そんなことはありません。僕と、それにあなたにとっても」

 俺にとっても?
 なに言ってるんだ、こいつは?

 そりゃ元々は俺にとってこの世界は縁もゆかりもない。
 ただの転生先だ。
 家族もいなけりゃ友達もいない。
 どこもかしこも馴染みのない異世界だった。

 けど、今はもう違う。
 多くの仲間ができて。
 顔馴染みができて。
 一緒に戦ったり。
 一緒に笑ったり。
 生死を共にしてきた。

 その世界をこんなメチャクチャにしておいて。
 それでもやるべきことなんて俺には思いつかない。

 けど。

 エドはあくまで笑みを浮かべたまま。
 両腕を左右に広げ、まるで聖者のように。
 自分の目的を告げた。

「これであなたと僕は、魔王の力を有したまま元の世界に帰ることができるのです」
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