8 俺、復活!

文字数 2,486文字

 立った!
 リビング・アーマーが立った!

 というわけで、俺は久しぶりに二本の脚で大地を踏みしめていた。
 自分の脚かというと、ちょっと微妙なところだけど。

 巨大ダンゴムシを倒した場所から、ズリズリ這いずって、小部屋まで戻った。
 例の白骨死体があった場所だ。
 で、その死体から、壊れた鎧パーツの代わりを拝借したというわけ。

 いや、もちろん怖かったけどね?
 人の骨とか、何度見ても慣れないわー。
 人外転生したんだから、そういう感覚鈍くなったりしないんですかね?
 したらしたで嫌かもしれないけどさ。

 ともかく、壊れた右の腕パーツと右脚の太ももパーツを取り替えた。
 で、手甲と、膝から下のパーツを追加。
 サイズがちょっと違うんだけど、くっつけると、問題なくつながった。
 なんていうか、磁石同士がくっつくみたいな感じだ。
 俺が、自分の身体だと認識するとくっつくらしい。
 ちなみに、盾と剣もあったんだけど、錆びてボロボロだったのであきらめた。

 前にもちょっと思ったけど、俺の本体は鎧じゃないんだろうな。
 霊体があって、それが取り憑いてる鎧が身体代わりになる。
 そう考えると、転生したとはいえ、俺幽霊みたいじゃないか?

 うーん……。
 あまり深く考えるのはやめておこう。
 それに、この身体も便利といえば便利だ。
 痛くないし。
 壊れたら交換可能だし。
 防具屋とかあれば、もっとカスタマイズできるのになー。

 え?
 お金がないだろって?
 ふっふっふ。
 それが、あるのですよ!

 じゃじゃーん!

 布袋だ。
 なかにはコインが30枚くらい入ってる。
 銅貨かな?
 この白骨死体たちの持ち物だ。
 銅貨30枚がどのくらいの価値かはわからないけど。
 まあ、冒険者が持ってるんだ、旅先でいろいろ使えるくらいではあるだろう。
 死体泥棒みたいでアレだけど、死んでからかなり経ってるみたいだし。
 見逃してください。

 さて、困ったのは胴パーツだ。
 大ネズミの体当たりで大穴が開いた腹部分。
 ここも交換しちゃおうと思ったのだが、これだけはサイズが合わなすぎた。
 どちらの冒険者のものも、小さすぎたのだ。

 実際のところ、ここに穴が空いてたらどう困るのかというと、答えにくいんだけど。
 なにしろ中身がないからな。
 けど、背中側も同じようにやられたら、上半身と下半身が泣き別れしそう。
 それはちょっとマズい。

『変化したステータスを表記しました』

 ん?
 冒険書がなんか言ってる。
 ステータスが変化したって?

『リビングアーマー LV.2 名前:なし
 HP:436/543(104/234)
 MP:264/331(14/14)
 物理攻撃力:57(34)
 物理防御力:63(42)
 魔法攻撃力:3(3)
 魔法抵抗力:1(1)
 スキル:霊体感覚
 称号:駆け出し冒険者
 称号特典:なし』

 おおおおお!?
 なんかすっげー増えてね?

 以前の数値と比べると、大進化だ。
 レベルが上がったわけでもないのに。
 これ、パーツを交換したりしたおかげだよね?
 そういう仕組みなのかー。

 現在のHPが満タンじゃないのは、やっぱりこの大穴が原因かね。
 魔法攻撃力と抵抗力は増えてない。
 これは、追加した鎧パーツが魔力を持ってないとかそんな感じ?
 でも、MPはめっちゃ増えてる。

 魔法◯◯力とMPはべつものなのか。
 ダンゴムシのステータスから推理すると、MPは体内保有魔力と関係があるっぽい。
 で、リビング・アーマーの俺だと、その『体内』に当たるのは鎧なんじゃないか?
 だから、鎧パーツを交換すると、MPも変化する、とか。

 ん?
 そうだ!

 あのダンゴムシの装甲。
 あれで腹の穴をふさげばいいんじゃないか?
 ダンゴムシのステータスは、HPが559、MPが675。
 どちらもいまの俺より上だ。
 特にMP。
 まだ仮説だけど、腹の大穴は、大ネズミが魔力を持ってたせいで空いたんだ。
 そこを強化すれば、あのネズミどもに立ち向かえる。
 そうすりゃ、ダンジョンを奥へ進まなくても、外に出られる!

 よし、じゃあ、いっちょ、うろこはぎしに行きますか!
 うろこじゃなくて装甲だけど。

◆◇◆◇◆

 ――うおえぇぇぇぇえええ。

 俺は地面に膝と両手をついて四つんばいになっていた。
 酔っ払いが道端でゲロ吐いてるときのポーズだ。
 もちろん、なんも出てこないですけどね。

 いや、マジ無理。
 あれはキツい。

 ダンゴムシのところに向かった俺が見たのは、弱肉強食の世界だった。
 ダンゴムシの死体に、大量のクモさんが群がっていたのだ。
 巨大ダンゴムシと比べると小さく見えるけどね。
 一匹一匹が、タランチュラみたいなサイズ。
 それが動き回って、要するに、その――食ってた。
 たぶん。
 ちゃんと見なかったからわからないけどね。

 いやーないわー。
 あそこに突っ込んでいって、装甲を一枚剥ぎ取ってくる勇気は俺にはない。
 クモさんたちのお食事が済むまで待つか。
 あるいはダンゴムシ装甲による補強はあきらめてネズミと戦うか。

 ――バゴギャアアアアン!

 え!?
 な、なに!?
 なんか、きいたこともない音が響いたんですけど!
 しかも、発生源は俺の身体だ。

 ふわっ――と身体が浮いた感じ。
 けど、地面に立っている感触も普通にある。

 いやな予感がして下を見る。

 俺の胸から上が宙に浮いてる。
 腰から下はそのまま。
 つまり……。
 
 上半身と下半身が泣き別れ!

 うっわあああああああ!
 さっき心配したとおりのことが起きてしまった!

 誰だよ、こんなひどいことしたの!

 宙に浮いた上半身が、今受けた攻撃のせいか、後ろ側を向く。

 そして俺はそいつの姿を目にした。
 巨大な鎌を持った、カマキリのようなモンスターの姿を。
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