第7話 気の弱い狼は夢の中で高らかに叫ぶ
文字数 1,347文字
ジムはシャワーを浴びた後、そのままソファで眠り込んでしまった。
開けっ放しの窓から冷気が入り込む頃、雑踏は消え訳あり影だけが電柱の影で蠢く。
うたた寝から目覚めたジムは凝った首を回しながらケトルのスイッチを入れた。
瞬く間に湯気が立ちのぼるとジムは大きめのカップにそそぎ込み廉価のティーバックとスティックシュガーを放り込んだ。
「さて、どうするか」
滲み歪んで広がる紅茶を眺めながらいまだ点滅しているマイクロカードに気をやる。
通信しているのだろうか。
不規則な点滅を繰り返しながらどこか冷たい機械音が時折響いた。
ジムはシュガーの空筒で紅茶を混ぜ一口注ぐ。
喉に熱湯が流れ込み覚醒が導かれた。
半分ほど飲み干してコースターに置いた。
そして、訝しがりながらもヘッドセットを手に取って装着してみた。
再びザーっと言う雑音が流れていたが、装着に反応したのかマイクロカードの点滅が速くなった。
ジムはそれに気づいてヘッドセットの音に耳を傾ける。
しばらくするとマイクロカードの点滅が止まって雑音も消えた。
ジムは仕組みがよくわかならかったが何かしら認証がされたのかと勘ぐる。
「まあ、何かの試しだ」
ジムはそう呟いて再びソファに横たわる。
しばらくはパソコンのデスクトップを眺めていたが次第に眠気が襲い抗わずにすっと目を閉じた。
まぶたの裏に街角で一度見ただけの女の姿が浮かんでくる。
気品のある高慢な女だったような、と自分勝手な妄想を始める。
ジムの口元が緩み、下世話な妄想が逸り出した。
いつの間にか眠りに誘われていくジム。
霧のような視界からすっと暗闇の世界に引きずり込まれるとクリアな無音の世界が広がってくる。
そして足下に感触が甦ったとき、どこか見覚えのある景色へと変わっていった。
どこだろう?
巡回のときに見たことのあるような。
アベニューの一角、街路樹は瑞々しく季節の違いを感じる。
人の往来は変わりなく、やはりここは自分の街だと思った。
そして町の雑踏の中からいつもの老人が近づいてくる。
ジムは身構えることもなくその歩みを凝視していた。
「ようこそ、ジム様」
老人は語りかけジムは微動だにしない。
「これから先で起こることは夢の中の出来事でございます。この中で起こる出会いはすべて現実に存在する出会いであります。もしも相思となる出会いがありましたら、この夢のあと現実の世界でも出会うこととなりましょう。それではごゆっくりとお楽しみくださいませ」
老人はそう言うとすっとどこかに消えていった。
口元が緩んで見え、その緩みをジムは見逃さなかった。
ジムは職業柄警戒心が強い。
普段の生活でもその癖は抜けなかった。
試しにと入ったこの世界でもそれは変わらず、潜在意識にまで染み込んだ性格に少しばかり呆れた。
しばらくの間、ジムはどこかの雑踏の片隅ですれ違う人々をずっと眺めていた。
*****
街角のランプが消えかけている。
ゆらゆらと、最後の灯火だろうか。
そのゆらめきの下で老人は呟く。
出会いの正体は意識下の違和感にしかすぎない、と。
(第8話につづく)
開けっ放しの窓から冷気が入り込む頃、雑踏は消え訳あり影だけが電柱の影で蠢く。
うたた寝から目覚めたジムは凝った首を回しながらケトルのスイッチを入れた。
瞬く間に湯気が立ちのぼるとジムは大きめのカップにそそぎ込み廉価のティーバックとスティックシュガーを放り込んだ。
「さて、どうするか」
滲み歪んで広がる紅茶を眺めながらいまだ点滅しているマイクロカードに気をやる。
通信しているのだろうか。
不規則な点滅を繰り返しながらどこか冷たい機械音が時折響いた。
ジムはシュガーの空筒で紅茶を混ぜ一口注ぐ。
喉に熱湯が流れ込み覚醒が導かれた。
半分ほど飲み干してコースターに置いた。
そして、訝しがりながらもヘッドセットを手に取って装着してみた。
再びザーっと言う雑音が流れていたが、装着に反応したのかマイクロカードの点滅が速くなった。
ジムはそれに気づいてヘッドセットの音に耳を傾ける。
しばらくするとマイクロカードの点滅が止まって雑音も消えた。
ジムは仕組みがよくわかならかったが何かしら認証がされたのかと勘ぐる。
「まあ、何かの試しだ」
ジムはそう呟いて再びソファに横たわる。
しばらくはパソコンのデスクトップを眺めていたが次第に眠気が襲い抗わずにすっと目を閉じた。
まぶたの裏に街角で一度見ただけの女の姿が浮かんでくる。
気品のある高慢な女だったような、と自分勝手な妄想を始める。
ジムの口元が緩み、下世話な妄想が逸り出した。
いつの間にか眠りに誘われていくジム。
霧のような視界からすっと暗闇の世界に引きずり込まれるとクリアな無音の世界が広がってくる。
そして足下に感触が甦ったとき、どこか見覚えのある景色へと変わっていった。
どこだろう?
巡回のときに見たことのあるような。
アベニューの一角、街路樹は瑞々しく季節の違いを感じる。
人の往来は変わりなく、やはりここは自分の街だと思った。
そして町の雑踏の中からいつもの老人が近づいてくる。
ジムは身構えることもなくその歩みを凝視していた。
「ようこそ、ジム様」
老人は語りかけジムは微動だにしない。
「これから先で起こることは夢の中の出来事でございます。この中で起こる出会いはすべて現実に存在する出会いであります。もしも相思となる出会いがありましたら、この夢のあと現実の世界でも出会うこととなりましょう。それではごゆっくりとお楽しみくださいませ」
老人はそう言うとすっとどこかに消えていった。
口元が緩んで見え、その緩みをジムは見逃さなかった。
ジムは職業柄警戒心が強い。
普段の生活でもその癖は抜けなかった。
試しにと入ったこの世界でもそれは変わらず、潜在意識にまで染み込んだ性格に少しばかり呆れた。
しばらくの間、ジムはどこかの雑踏の片隅ですれ違う人々をずっと眺めていた。
*****
街角のランプが消えかけている。
ゆらゆらと、最後の灯火だろうか。
そのゆらめきの下で老人は呟く。
出会いの正体は意識下の違和感にしかすぎない、と。
(第8話につづく)