第5話 錆びたゲートは意思を持つ
文字数 1,362文字
ジムが仕事から戻るともう闇は寸前まで迫っていた。
季節を先取りする枯れ葉がカラカラと音を立てブロックの襞に絡まっては宙に舞う。
ジムが厚底のブーツで枯れ葉を踏みしめるとそれは容赦なく粉々に朽ち果てた。
ジムは小さなアパートに住んでいる。
集合ポストに無造作に入れられた郵便物をかき集めてそのまま螺旋階段を昇っていく。
ギシギシと軋みながら螺旋は闇へと続く。
ジムは立て付けの悪くなったドアを蹴るように開けテーブルの上に郵便物を滑らせる。
塊は溶けなだれるようにテーブルを覆った。
軽めの封筒がこぼれ落ちるように舞って床に散る。
その雪崩の中で意志を宿した封筒が机の上に残っていた。
ジムはその封筒を手に取って不安と期待の交錯する笑顔をこぼした。
そして薄手のウインドブレーカーをソファに放り投げてネクタイを緩め封筒を開けた。
ゴワゴワした手触りの正体がヘッドセットとマイクロカードであることを確認すると便箋に目を通し始める。
「これが鍵になるのだな」
ジムは一言そう漏してマイクロカードをパソコンに差そうとする。
だが前回のマイクロカードが刺さったままだった。
一瞬の躊躇いのあと古いカードを抜いて捨て新しいカードを差し込む。
カードのランプが一度だけ赤く光った。
ジムは適当なキーを押してフリーズを解き椅子に深く座った。
背もたれに身を委ねながら起動のアクションをじっと見つめる。
やがてカタカタとした鈍い音が止むと再び画面は真っ黒になる。
ジムはのめり込むように画面に顔を近づけてそれを凝視した。
「ジム様、ご登録ありがとうございます。本日お届けしたのは発明に接続する道具でございます。見てのとおりコードレスのヘッドセットになっております。寝る前にそれを装着してください。パソコンはこのままで。マイクロカードとヘッドセットにてオンライン通信が行われ発明に接続されます」
老人の説明は便箋の内容を簡略化したものだった。
ジムは再び背もたれに体を委ねふうっと息を吐いた。
老人が一呼吸おいて言葉を重ねる。
「ジム様。今宵発明に招待いたします。この発明では、事前にご登録いただいたデータを元にジム様の未来をお見せいたします。夢の世界への冒険です。そこに現れるジム様は潜在意識を姿にしたものではあり現実のジム様そのものと相違はありません。そして、この発明では様々な人と出会います。もしかしたらジム様の運命の出会いをお助けするかも知れません」
老人はそう言うと深く一礼をして消えた。
ヘッドセットを試しに装着してみるとザーというノイズだけが響いた。
装着が不完全なのかと思って何度かセットしなおしていると途端にピッという音が鳴る。
鳴動するかのようにマイクロカードのランプが灯った。
ジムは驚きを隠せないままおもむろにそれを外して丁寧に机の上に置いた。
よく見ると通信しているかのようにカードとヘッドセットの赤いランプが交互に点滅していた。
*****
踏み入れた道の先に何かあると言うのか。
それを知れば思いとどまるだろうか。
白い歯を見せて老人は笑う。
時の歩みは速すぎて後戻りを許さないだろう、と。
(第6話につづく)
季節を先取りする枯れ葉がカラカラと音を立てブロックの襞に絡まっては宙に舞う。
ジムが厚底のブーツで枯れ葉を踏みしめるとそれは容赦なく粉々に朽ち果てた。
ジムは小さなアパートに住んでいる。
集合ポストに無造作に入れられた郵便物をかき集めてそのまま螺旋階段を昇っていく。
ギシギシと軋みながら螺旋は闇へと続く。
ジムは立て付けの悪くなったドアを蹴るように開けテーブルの上に郵便物を滑らせる。
塊は溶けなだれるようにテーブルを覆った。
軽めの封筒がこぼれ落ちるように舞って床に散る。
その雪崩の中で意志を宿した封筒が机の上に残っていた。
ジムはその封筒を手に取って不安と期待の交錯する笑顔をこぼした。
そして薄手のウインドブレーカーをソファに放り投げてネクタイを緩め封筒を開けた。
ゴワゴワした手触りの正体がヘッドセットとマイクロカードであることを確認すると便箋に目を通し始める。
「これが鍵になるのだな」
ジムは一言そう漏してマイクロカードをパソコンに差そうとする。
だが前回のマイクロカードが刺さったままだった。
一瞬の躊躇いのあと古いカードを抜いて捨て新しいカードを差し込む。
カードのランプが一度だけ赤く光った。
ジムは適当なキーを押してフリーズを解き椅子に深く座った。
背もたれに身を委ねながら起動のアクションをじっと見つめる。
やがてカタカタとした鈍い音が止むと再び画面は真っ黒になる。
ジムはのめり込むように画面に顔を近づけてそれを凝視した。
「ジム様、ご登録ありがとうございます。本日お届けしたのは発明に接続する道具でございます。見てのとおりコードレスのヘッドセットになっております。寝る前にそれを装着してください。パソコンはこのままで。マイクロカードとヘッドセットにてオンライン通信が行われ発明に接続されます」
老人の説明は便箋の内容を簡略化したものだった。
ジムは再び背もたれに体を委ねふうっと息を吐いた。
老人が一呼吸おいて言葉を重ねる。
「ジム様。今宵発明に招待いたします。この発明では、事前にご登録いただいたデータを元にジム様の未来をお見せいたします。夢の世界への冒険です。そこに現れるジム様は潜在意識を姿にしたものではあり現実のジム様そのものと相違はありません。そして、この発明では様々な人と出会います。もしかしたらジム様の運命の出会いをお助けするかも知れません」
老人はそう言うと深く一礼をして消えた。
ヘッドセットを試しに装着してみるとザーというノイズだけが響いた。
装着が不完全なのかと思って何度かセットしなおしていると途端にピッという音が鳴る。
鳴動するかのようにマイクロカードのランプが灯った。
ジムは驚きを隠せないままおもむろにそれを外して丁寧に机の上に置いた。
よく見ると通信しているかのようにカードとヘッドセットの赤いランプが交互に点滅していた。
*****
踏み入れた道の先に何かあると言うのか。
それを知れば思いとどまるだろうか。
白い歯を見せて老人は笑う。
時の歩みは速すぎて後戻りを許さないだろう、と。
(第6話につづく)