第27話 雪を纏う淑女の夢
文字数 1,933文字
イヴに迫る週末、街は雪に見舞われ街路樹のイルミネーションの乱反射を導いた。
点滅しながら雪を溶かし往来の視線を浴びていく。
見上げて指を差す子ども、笑顔の母親が寄り添って童話を聴かせる。
無言で見上げる恋人たちは無意識に腕を絡ませ、仕事帰りのサラリーマンは一服の余裕を見つけた。
エディナはその日、イヴに着ていくドレスを探しに来ていた。
行きつけの店は得意客に新着入荷のダイレクトメールを送っている。
メールからウェブに飛び試着予約を送信すると1週間だけキープしてくれる。
タイミング良く届いたメールを見つけたエディナはイヴに合いそうな服を見つけて試着予約をした。
いつもなら数日後に来店することが多かったが今回はその日に店を訪れた。
エディナが店に着くとカーラがすぐに駆け寄って奥の試着室に案内する。
試着室にあらかじめ用意されている服を着飾ってみせるエディナ。
「どれが良さそう?」
「そうですね、今年の流行色をメインに考えるなら白がベース、暖冬予測なので胸元が大胆でも良いかと」
カーラはエディナに笑顔を返した。
彼女は合わないものは合わないと言い過剰に絶賛もしない。
そのはっきりとしたアドバイスをエディナは好んでいた。
カーラは数少ない信頼できる店員で何のために服を選びにきたのかを瞬時に把握してくれる。
それでも無粋なことは言わない。
感情を把握してキーワードでそれとなく伝える。
今回はそれが「胸元」と言う言葉だった。
ふたりは談笑を交えた後、レース模様の胸元が大胆にカットされたドレスを選んだ。
ビーズの装飾が眩しいくらいに散りばめられて「光に反射するとよりいっそうキレイに見えますよ」とカーラは囁いた。
「特別な日だから」とはにかむエディナ。
カーラはいつも以上に女の子らしく振る舞う彼女を暖かく見守っていた。
エディナは買い物を済ました後ミュージアムホールに出向くことにした。
タクシーを捕まえて行き先を告げる。
賑やかな装飾のストリートを駆け抜けて、車窓はきらびやかな赤と緑に包まれる。
流れるような雪のイルミネーションが街路樹を彩り、点と線のコントラストが幻想的な週末を演出していた。
ミュージアムホールは街の少し外れにあった。
毎日のように豪華なアーティストの競演や公演があり街外れに浮かぶ光の島は街の憧れでもある。
メインストリートをひたすら西へ行き、ビル群を越えて空の表情が見える頃、照明に彩られたドーム型のホールが突如現れる。
その幻想的な空間は心をざわつかせ、それに応えるパフォーマンスは幾人もの心を満たしてきた。
タクシーが敷地に入ると、エディナはロータリーの手前で停車させた。
ホール全体を一望できるゲートの外から歩きたかったからだ。
雪道を踏み締めるたびにホールの熱が伝わってくる。
ドーム全体が白い光で覆われて、囲むように5つの高いタワーが聳えていた。
タワーからしなる鉄製のロープに電飾が施されてランダムに輝いている。
赤と緑のランプ、まるでクリスマスツリーがドームを囲んでいるようだった。
エディナはホールの東側の外壁をゆっくりと見て回った。
そこは演目ポスターがガラスケースに飾られている場所だった。
公演中を含め1ヶ月先までのスケジュールがビジュアルで展開されている。
ケースの上下の電光掲示板に「NOW PLAYING」と「SOLD OUT」の文字が踊っていた。
エディナはイヴのコンサートのポスターを見つけ立ち止まる。
夢見心地な妄想、隣り合って座って、さてどちらが先に手を握るだろうか。
演目の音楽を頭の中で再生しながら口元を緩めて妄想に耽る。
雑踏の中で目を閉じているとパウダースノーが彼女を包み込んだ。
イルミネーションが舞い降りた粉を煌めかせて、スノードームに佇む姫は祈りを捧げている。
通り過ぎる雑踏が足を止めて、その無垢に視線を注いでいる。
ホワイトスノーがひとつ、エディナの頬を撫でた。
その悪戯はエディナを覚醒させ、視線は行き場を亡くして慌てる。
エディナは随分と暗くなった空を眺めた。
無数の粉が空の暗闇を塗り変えようとしている。
幻想的な空は再び彼女の妄想を奮い立たせていく。
イヴにもこのホワイトを。
エディナは口を結んでタクシー乗り場へと歩いて行った。
*****
夜空の雪は清く尊い。
地上の雪も幾重もの美しさを秘める。
赤と緑のタワーの片隅で老人は呟く。
美はいつも無粋な足跡に汚されてしまう、と。
(第28話につづk)
点滅しながら雪を溶かし往来の視線を浴びていく。
見上げて指を差す子ども、笑顔の母親が寄り添って童話を聴かせる。
無言で見上げる恋人たちは無意識に腕を絡ませ、仕事帰りのサラリーマンは一服の余裕を見つけた。
エディナはその日、イヴに着ていくドレスを探しに来ていた。
行きつけの店は得意客に新着入荷のダイレクトメールを送っている。
メールからウェブに飛び試着予約を送信すると1週間だけキープしてくれる。
タイミング良く届いたメールを見つけたエディナはイヴに合いそうな服を見つけて試着予約をした。
いつもなら数日後に来店することが多かったが今回はその日に店を訪れた。
エディナが店に着くとカーラがすぐに駆け寄って奥の試着室に案内する。
試着室にあらかじめ用意されている服を着飾ってみせるエディナ。
「どれが良さそう?」
「そうですね、今年の流行色をメインに考えるなら白がベース、暖冬予測なので胸元が大胆でも良いかと」
カーラはエディナに笑顔を返した。
彼女は合わないものは合わないと言い過剰に絶賛もしない。
そのはっきりとしたアドバイスをエディナは好んでいた。
カーラは数少ない信頼できる店員で何のために服を選びにきたのかを瞬時に把握してくれる。
それでも無粋なことは言わない。
感情を把握してキーワードでそれとなく伝える。
今回はそれが「胸元」と言う言葉だった。
ふたりは談笑を交えた後、レース模様の胸元が大胆にカットされたドレスを選んだ。
ビーズの装飾が眩しいくらいに散りばめられて「光に反射するとよりいっそうキレイに見えますよ」とカーラは囁いた。
「特別な日だから」とはにかむエディナ。
カーラはいつも以上に女の子らしく振る舞う彼女を暖かく見守っていた。
エディナは買い物を済ました後ミュージアムホールに出向くことにした。
タクシーを捕まえて行き先を告げる。
賑やかな装飾のストリートを駆け抜けて、車窓はきらびやかな赤と緑に包まれる。
流れるような雪のイルミネーションが街路樹を彩り、点と線のコントラストが幻想的な週末を演出していた。
ミュージアムホールは街の少し外れにあった。
毎日のように豪華なアーティストの競演や公演があり街外れに浮かぶ光の島は街の憧れでもある。
メインストリートをひたすら西へ行き、ビル群を越えて空の表情が見える頃、照明に彩られたドーム型のホールが突如現れる。
その幻想的な空間は心をざわつかせ、それに応えるパフォーマンスは幾人もの心を満たしてきた。
タクシーが敷地に入ると、エディナはロータリーの手前で停車させた。
ホール全体を一望できるゲートの外から歩きたかったからだ。
雪道を踏み締めるたびにホールの熱が伝わってくる。
ドーム全体が白い光で覆われて、囲むように5つの高いタワーが聳えていた。
タワーからしなる鉄製のロープに電飾が施されてランダムに輝いている。
赤と緑のランプ、まるでクリスマスツリーがドームを囲んでいるようだった。
エディナはホールの東側の外壁をゆっくりと見て回った。
そこは演目ポスターがガラスケースに飾られている場所だった。
公演中を含め1ヶ月先までのスケジュールがビジュアルで展開されている。
ケースの上下の電光掲示板に「NOW PLAYING」と「SOLD OUT」の文字が踊っていた。
エディナはイヴのコンサートのポスターを見つけ立ち止まる。
夢見心地な妄想、隣り合って座って、さてどちらが先に手を握るだろうか。
演目の音楽を頭の中で再生しながら口元を緩めて妄想に耽る。
雑踏の中で目を閉じているとパウダースノーが彼女を包み込んだ。
イルミネーションが舞い降りた粉を煌めかせて、スノードームに佇む姫は祈りを捧げている。
通り過ぎる雑踏が足を止めて、その無垢に視線を注いでいる。
ホワイトスノーがひとつ、エディナの頬を撫でた。
その悪戯はエディナを覚醒させ、視線は行き場を亡くして慌てる。
エディナは随分と暗くなった空を眺めた。
無数の粉が空の暗闇を塗り変えようとしている。
幻想的な空は再び彼女の妄想を奮い立たせていく。
イヴにもこのホワイトを。
エディナは口を結んでタクシー乗り場へと歩いて行った。
*****
夜空の雪は清く尊い。
地上の雪も幾重もの美しさを秘める。
赤と緑のタワーの片隅で老人は呟く。
美はいつも無粋な足跡に汚されてしまう、と。
(第28話につづk)