第4話 欲望の滴
文字数 1,633文字
わずかばかりの街路樹が色褪せ砂塵とともに落葉が風に舞う。
季節の便りが街の彩りを変えた週末、エディナの元に一通の封筒が届いた。
エディナの趣味は街を闊歩すること。
お気に入りのショーウインドウを眺めては挑発するかのように着こなしを比べる。
ガラスに映った街の往来を盗み見ては着こなしの研究に余念がなかった。
その日もアベニュー角のお気に入りに寄って往来のファッションを眺めていたがいつになく落ち着かなかった。
エディナは早々に研究を切り上げて足早に家路を急ぐことにした。
もうすぐ一週間になる。
そのときが迫るにつれて取り憑かれたように反応しないマイクロカードを眺める日々。
外に出ても常に頭の片隅から離れず、まるで恋焦がれた少女のような無垢を曝け出していた。
傾きかけた太陽はまだ衰えを知らずに肌を照らす。
邸宅の門が影に隠れた頃エディナは帰途に着いた。
エディナの家は街の真ん中に位置し大きな庭を構えている邸宅だった。
貴族の旧家を買い取って改築した家で門の金属は歪み時折軋んだ音を鳴らす。
エディナはその音が不快でその度に舌を打ち鳴らしていたがその日は驚きと興奮で存在を忘れていた。
郵便受けに分厚い封筒が無造作に刺さっている。
胸を躍らせてながら取り出して翳す。
もう差出人不明の妙な封筒を奇妙がることもない。
エディナは駆け込むように部屋に上がり窓際の木椅子に座って封を開けた。
か細い鋏の切り口が次第に広がって更に興奮をもてあそぶ。
封筒を開けるとそこにはヘッドセットとマイクロカード、便箋が入っていた。
逸る心を抑えながらパソコンを立ち上げてマイクロカードを差し込む。
起動までの刹那がさらに興奮を助長させ画面にのめりこむ。
するとまた同じように画面が真っ黒になって例の老人が深々と頭を下げた。
「エディナ様、ご登録ありがとうございます。本日お届けしたのは発明に接続する道具でございます。見てのとおりコードレスのヘッドセットになっています。寝る前にそれを装着してください。あ、そうパソコンはこのままで。オンラインでマイクロカードを通してデータ送信を行いますので」
エディナはその言葉を聞いて尚早にヘッドセットをつけてみた。
ザーと言う音がかすかに聞こえる。
壁掛けの時計を眺めたがまだ就寝時間に程遠く口元を歪ませた。
「エディナ様。今宵発明に招待いたします。この発明では事前登録いただいたデータを元にエディナ様の未来をお見せいたします。夢の中に現れるエディナ様は潜在意識を姿にしたものであって現実のエディナ様とは少し違うかも知れません。そしてこの発明では様々な人と出会います。もしかしたら運命の出会いをお助けするかも知れません」
エディナは一言一句を飲み込むように聞き入る。
老人は一通りの説明を終えたあと深々とお辞儀をして消えていった。
画面が消えたあともマイクロカードがずっと動いて赤いランプが点いている。
カタカタとパソコンが動いている音もする。
エディナは言葉通りにパソコンの電源を入れたままにしておいた。
「エディナ、お食事よ」
下の階から母・マリーの声が響く。
エディナは大きめの声で返事をしたあと便箋をじっくりと読み込んだ。
発明に接続する方法や夢の世界での注意点などが書いてある。
概ね老人が説明したことが難しく書いてあるだけで気になるところはなかった。
夢想が逸る。
その世界で出会う未知の人。
無性に口元が緩み、欲望が露見しても構いやしない。
エディナは鏡台に座り直し、意味もなく自分の顔を舐め回すように観察し始めた。
*****
未知を恐れぬものは影の存在を知りはしない。
影は光に隠れながら絶えず機会を窺う。
老人は口を結ぶがこぼれる笑みを堪えきれない。
ふふふ、無鉄砲な意志が今、未来を求めて放たれた。
季節の便りが街の彩りを変えた週末、エディナの元に一通の封筒が届いた。
エディナの趣味は街を闊歩すること。
お気に入りのショーウインドウを眺めては挑発するかのように着こなしを比べる。
ガラスに映った街の往来を盗み見ては着こなしの研究に余念がなかった。
その日もアベニュー角のお気に入りに寄って往来のファッションを眺めていたがいつになく落ち着かなかった。
エディナは早々に研究を切り上げて足早に家路を急ぐことにした。
もうすぐ一週間になる。
そのときが迫るにつれて取り憑かれたように反応しないマイクロカードを眺める日々。
外に出ても常に頭の片隅から離れず、まるで恋焦がれた少女のような無垢を曝け出していた。
傾きかけた太陽はまだ衰えを知らずに肌を照らす。
邸宅の門が影に隠れた頃エディナは帰途に着いた。
エディナの家は街の真ん中に位置し大きな庭を構えている邸宅だった。
貴族の旧家を買い取って改築した家で門の金属は歪み時折軋んだ音を鳴らす。
エディナはその音が不快でその度に舌を打ち鳴らしていたがその日は驚きと興奮で存在を忘れていた。
郵便受けに分厚い封筒が無造作に刺さっている。
胸を躍らせてながら取り出して翳す。
もう差出人不明の妙な封筒を奇妙がることもない。
エディナは駆け込むように部屋に上がり窓際の木椅子に座って封を開けた。
か細い鋏の切り口が次第に広がって更に興奮をもてあそぶ。
封筒を開けるとそこにはヘッドセットとマイクロカード、便箋が入っていた。
逸る心を抑えながらパソコンを立ち上げてマイクロカードを差し込む。
起動までの刹那がさらに興奮を助長させ画面にのめりこむ。
するとまた同じように画面が真っ黒になって例の老人が深々と頭を下げた。
「エディナ様、ご登録ありがとうございます。本日お届けしたのは発明に接続する道具でございます。見てのとおりコードレスのヘッドセットになっています。寝る前にそれを装着してください。あ、そうパソコンはこのままで。オンラインでマイクロカードを通してデータ送信を行いますので」
エディナはその言葉を聞いて尚早にヘッドセットをつけてみた。
ザーと言う音がかすかに聞こえる。
壁掛けの時計を眺めたがまだ就寝時間に程遠く口元を歪ませた。
「エディナ様。今宵発明に招待いたします。この発明では事前登録いただいたデータを元にエディナ様の未来をお見せいたします。夢の中に現れるエディナ様は潜在意識を姿にしたものであって現実のエディナ様とは少し違うかも知れません。そしてこの発明では様々な人と出会います。もしかしたら運命の出会いをお助けするかも知れません」
エディナは一言一句を飲み込むように聞き入る。
老人は一通りの説明を終えたあと深々とお辞儀をして消えていった。
画面が消えたあともマイクロカードがずっと動いて赤いランプが点いている。
カタカタとパソコンが動いている音もする。
エディナは言葉通りにパソコンの電源を入れたままにしておいた。
「エディナ、お食事よ」
下の階から母・マリーの声が響く。
エディナは大きめの声で返事をしたあと便箋をじっくりと読み込んだ。
発明に接続する方法や夢の世界での注意点などが書いてある。
概ね老人が説明したことが難しく書いてあるだけで気になるところはなかった。
夢想が逸る。
その世界で出会う未知の人。
無性に口元が緩み、欲望が露見しても構いやしない。
エディナは鏡台に座り直し、意味もなく自分の顔を舐め回すように観察し始めた。
*****
未知を恐れぬものは影の存在を知りはしない。
影は光に隠れながら絶えず機会を窺う。
老人は口を結ぶがこぼれる笑みを堪えきれない。
ふふふ、無鉄砲な意志が今、未来を求めて放たれた。