1-1

文字数 810文字

 ずっと思ってきたことがある。
 人はみな、本音と建て前は違う。それはどんな小さな子どもでも。

 僕が中学校から不登校になったのは、クラスメイトの本音が嫌というほど「見えた」からだ。

 僕は気持ちが悪い。自分でもそう思う。

 ――なぜ「普通」に生まれてこなかったんだろう。「普通の家庭」に生まれてこなかったんだろう。

 毎日毎日こんなことを考えながらベッドの中でゴロゴロする。

 不登校と言っても、高校生になった今は通信制の高校に「所属」している。通信制のいいところは、人間関係が希薄なところだ。授業は月に何度かレポートを学校に送るだけだし、人との付き合いが少ない。それでも授業に出る日はあるわけだが。

 僕の所属している高校、私立GMK学園高校のスクーリングは毎年夏に行われる。夏の暑い時期、一週間。体育や家庭科など、通信ではできない実技を経験するのだ。

 この日だけ我慢すれば、人付き合いなんてしなくていい。引きこもりの僕にはそれが苦痛なのだけど……一応高校卒業の『免許』は持っておきたい。

 なんだかんだ言っても、日本はまだまだ学歴社会。いくら親が金持ちで、将来食って行くのに苦労しないような人間でも、高校を出ているか出ていないかで判断する人は多い。

 7月最終週。僕は東京に行く。

 今住んでいる群馬県太田から、一週間毎日登校するのには少々距離がありすぎる。通学だけで3-4時間は余裕でかかってしまう。まず、最寄りのバス停からJRが通っている駅まで1時間。そこから最低2時間は電車に揺られる。

 毎日寝てばかりで趣味のない引きこもりに、この苦行はかなり厳しい。ただでさえ普段経験しない人間関係まで構築しないといけない。たったの1週間だが、バテてしまう。だから僕は、毎年この期間は都内のビジネスホテルに滞在することにしていた。

 今日は金曜日。いよいよ来週からだ。

 僕はうんざりしながらキャリーケースに服と教科書、ノートと筆記用具を詰めた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み