3-2

文字数 1,004文字

 55分経過。前半30分は僕が眠っていたから悪いんだけど、時間がない。一枚一枚残留思念を読み取るが、どれも違う。さっきの『ユウキ』さんと『ヒロアキ』さんじゃない。

「あー、終わんねぇ。なんで出てこないんだ。せめて名字がわかってれば……」
「そんなこと言っても意味ない。そろそろ僕らも年貢の納め時じゃない?」
「やっとシロの親友になれたと思ったのに、オレたち死ぬのか?」
「あっさり人を殺すくせに、自分の生には執着するんだね。意外」
「……殺さなきゃ生き延びられないってことは、小さい頃から知っていたから」

 ふうん。僕らみたいな家柄だと、人の生死より大義名分を取るからな。そこは理解できてはいるが、いざ自分が死ぬということがリアルになってくると怖気づくタイプか。

「情けな……」

「はっ!? うるせぇよ! あーもう!! どうせ死ぬならもっとパーッといろんなことしてみたかった!!」

「例えば?」

「焼き肉1日中食べ放題とか!!」
「アホらし」

 軽口をたたきながら、僕は残留思念を読み取っていく。……違う、違う。どうしてないんだ? たとえ『ユウキ』や『ヒロアキ』が偽名だとしても、ふたりの思念は残っているはずなんだが……。

「あーもうっ! 知らねっ!!」

 自棄になった伊藤が、残りの資料の束をドンッと置く。そのとき、数枚の紙が舞った。

「!!」

 これだ! 舞った紙の中から光る2枚の履歴書。僕は素早くそれを手にする。

「……見つかったのか?」

 出てきたのは『松山裕章』と『品川大輝』という名前が書かれた履歴書。『裕章』はヒロアキさんで間違いないだろう。ただ、『品川大輝』……ユウキさんと名前が違う? でも僕の力は『これだ』と言っている。

「この2枚だ! 見つかったらどうすれば……」

 焦って部屋を見回すと、部屋の端に電話がある。そこの壁には『見つかったら送ってね☆』と電話番号が書いてあった。

「送って……? 電話でどうやって送るんだ!」
「電話じゃねぇよ、これはFAXだっ! えーと、送り方は……」

 伊藤が急いでFAXの受け皿に描かれた送り方を試そうとする。残り1分。手が汗ばんでいるようだ。
 電話番号を押すと、履歴書を入れる。ガガ、ピー……と音がしたあと、紙が下に流れていく。

 ピッピッピ。紙が床に落ちると、液晶画面に『送信完了』と出る。これでクリア……になるのか?

 プシューと音がすると、いきなり棚が動いて通路が現れる。

「ここか。行くぞ」
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