2-10

文字数 1,099文字

「やべ、目が痛ぇ……どうすれば……!」

なんとか目をこすりながら辺りを見回す。何のガスだよ! ……ガス?

「そうだ!」

俺はガスボンベとガスマスクが店内に置いてあることを思い出した。
急いで壁際にあったガスマスクを装着すると、ボンベにチューブをつけてつなぐ。このボンベに酸素が入っていなかったら俺は……! でも迷っている場合じゃない。

俺は決心してボンベの栓を開けた。

「……ふう」

どうやら正解だったようだ。しばらく動けなかったが、なんとかこれで持ちこたえたな。
他のメンバーも俺の姿を見て、ガスマスクを装着する。

「確かに命がけだったな……。ま、全員助かるなら、これで……」
「う……が……」
「東さん!? 何してるんですか、早くマスクを!!」

俺は残っているマスクを探す。しかし、壁際にあったボンベは……。

「な、なくなってる! もしかしてこれは……」

そうだ。最初からあったのは6つ。俺たちは7人。初めから仕組まれていたってことか。

「ぐ……」
「あ、東さん! 東さん!!」

泡を吹くと、東さんは白目をむく。首をひっかくが呼吸が止まって、びくびくと身体が痙攣する。

「……あ……あ……」

俺は咄嗟に東さんから手を離した。今まで酒ばっかり飲んでいた東さん。
酔ってはいたが、ついさっきまで俺と話をしてたのに……。

シャッターが上がると、外から窓が開けられる。それと同時にテレビもつく。

『東サン、残念でした~! 不採用なのは東さんに決定! 死体はあとで回収するから心配しないでね~』

くそっ……。こんなの想定外だぞ。ガスマスクとボンベに気づかなかったら、全員死んでたじゃねぇか!

俺がカメラをにらむと、テレビの中のミスターEPICは笑った。

『そんな目で見ないでよ、松山クン。これは試験なんだよ? 誰か落ちるのは仕方ないことだし、よ~く考えてみて。東サンはさぁ~……』

「飲み過ぎていた。だから動きも鈍くなっていたし、早い者勝ちだったガスマスクを取ることができなかった」

『御堂クン、その通り!』

そうだった。東さんは飲み過ぎていた。この状況下でアルコールに逃げれば、酔って正しい判断ができなくなる。だから東さんは選考から落ちたのだ。

『オレも残念だったなぁ~。東サンの手で、しっかり返してほしかったのにな』

『返してほしかった』? 一体何のことだ?

もしかして、東さんが会いたかったのって……ミスターEPICだったのか?

当の本人は口元を緩ませているのがわかる。なんだよ! 自分に会いに来た人間まで、平気で殺すなんてっ!!

「し、仕方ないことだったのよ……仕方なかった。仕方なかった」
「りえかさん?」

彼女は頭を抱えながら、自分に言い聞かせているようだった。
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