文字数 889文字

 ――数か月前のこと。
 父子家庭だったオレたち双子の家に、新しい母親と妹が来た。突然だったので正直驚いたが、どうやら今、海外に赴任している父さんが、オレたちに何も言わずに籍を入れたらしい。

 青天の霹靂。どうすればいいのか困ったが、浄見さん……新しい母さんが言うには、父さんが帰国するのと同時に結婚式をあげようという話になっていたらしい。
 その前に、今後生活がうまくいくよう、子どもだけで一軒家に住んでいたオレたちの世話をするため、浄見さんとその連れ子のありあは来たらしい。

 浄見さんは大学の心理学の教授兼カウンセラー。ありあは小学生だ。ふたりの登場に驚いたオレたちだったが、家事をやってくれるのはありがたかった。
 それにありあが……かわいすぎるっ! 男ふたり、しかも双子。そんな中に咲いた小さな花。ありあはマジ天使だ。……と、浮かれていたオレと正月だったが、いきなりでかい兄ちゃんができたありあのほうはびくびくする一方。どうしたもんか、と悩んでいたところ、浄見さんが取った行動はオレの興味を大変ひいた。

 彼女がありあに施したのは、いわゆる『催眠術』というやつだった。ありあに『もともとお兄ちゃんがいる』と思わせたのだ。そのおかげで、ありあとも打ち解けることができたし、ありあも「寿ちゃん、正月ちゃん」と慕ってくれる。

 オレは浄見さんに簡単な催眠術を習った。どうやら飲みこみが速かったらしく、正月くらいにだったらすぐかけられるようになった。だが、まだ催眠を『解く』ことはできない。自然に解けるのを待つだけなんだが、問題はないだろう。最悪、浄見さんに頼めばいい。

 さっそくオレは、高校で試してみることにした。そのターゲットに選んだのは、正月にフラれた女の子たち。髪型と筋肉の差はあるけど双子ってこともあり、正月がフッた女の子がこっちに流れてくることが多かった。顔で選ぶなと思ったが、使えるモンは使おうと思ったのが発端だ。

 実験は大成功。かかりやすい子はすぐ、かかりにくくても少し時間をかければ。この実験の成功により、オレは『嫌な思い出を忘れさせる』という商売を始めることにしたんだ。
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