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文字数 1,402文字
校舎裏、放課後。またベタだな、と苦笑しながら、オレはこっそりと様子をのぞく。
オレと同じ顔――少し筋肉は向こうのほうがついてるけど――は、相手に申し訳なさそうに笑う。相変わらずだな。ま、その答えを待っていたし、実際そうなるとも思っていた。
女の子は泣きそうな顔でこちらに来た。チャンス到来。
「ねぇ、キミ。正月にフラれたの?」
「え……こ、寿くん?」
「フラれてつらいよね……。弟のオレも申し訳ないと思っちゃうよ」
「………」
女の子の名前は知らない。興味もない。同学年だったかもしれないけど、どうでもいい。オレの『金づるちゃん』って仮名にしておこうか。
「オレが代わりにつきあってあげるって言いたいところだけど、キミのこともよく知らない。だけど、今日の『嫌な思い出』を忘れさせてあげることはできる」
「……本当に?」
「うん! 1000円でね」
「1000円!?」
「まぁまぁ、ものは試しってね♪ ちょっとこっちに来て」
オレは金づるちゃんを化学室へ連れ込むと、アルコールランプに火を灯す。暗幕で光を遮断すると、彼女をイスに座らせる。
「オレの目、じっと見てくれる?」
彼女の顔に近づき、見つめる。ちょっと頬が赤いのは、火のせいかそれとも正月にオレが似ているからか。どっちでも知ったこっちゃない。今から彼女の『想い』はあっさりと消える。
パチン、と指を鳴らすと、金づるちゃんは目を閉じて前に倒れる。それを軽く支えると、イスにもたれさせた。
よし、今日も完璧だ。
「いい? キミが正月のことを好きだったのは気のせい。告白したのも起きたら全部忘れてる。3、2、1!」
もう一回指を鳴らしたら、彼女はぱっちりと目を覚ました。
「え? ええ!? あれ、私なんでこんなところに……。なんかすごく嫌な気分だったんだけど」
「うん。その『嫌な気持ち』を忘れさせてほしいってオレのもとに来たんだよ。すっきりしたでしょ?」
「それはそうなんだけど……」
「はい、お代は1000円……いや、今回は特別500円でおっけー!」
金づるちゃんは首を傾げながらも、気分はすっきりしたらしく、意味も分からないままオレに500円払って化学室を出て行った。
「……寿。またお前、そんな商売してるのか」
金づるちゃんと入れ替わりに化学室へ入ってきたのは、双子の兄である正月だ。オレたちは1月1日生まれ。だから『正月』に『寿』。めでたい名前だ。
「今回の子はかかりやすかったから、半額にしてあげちゃった。いや~すごいよね! 浄見さんから教わった催眠術って」
浮かれるオレとは対照的に、正月は困ったような顔をする。同じ顔の人間にこういうのはナルシストかもしれないけど、こいつの顔は整っている。さらに空手部のエースときたもんだ。ちょっとオレよりは短い髪をかきながら、オレには無用な苦言を呈する。
「催眠術っていうか、あの人のは心理学とか色んなものを混ぜた、完全なオリジナルだろ? 変な力で商売するのはやめた方がいいんじゃないか?」
「いいじゃん! どうせ解き方はわからないんだし、『嫌な思い出』だけを消すようにすれば、みんなもハッピー! オレも金が入ってハッピー!!」
「はぁ……」
わざとらしくため息をつくと、正月は部屋を出る。その前にオレは声をかけた。
「あー、部活終わったら青葉さんところな!」
「はいはい」
化学室の扉が締められる。アルコールランプの火を消すと、カーテンを開けた。
オレと同じ顔――少し筋肉は向こうのほうがついてるけど――は、相手に申し訳なさそうに笑う。相変わらずだな。ま、その答えを待っていたし、実際そうなるとも思っていた。
女の子は泣きそうな顔でこちらに来た。チャンス到来。
「ねぇ、キミ。正月にフラれたの?」
「え……こ、寿くん?」
「フラれてつらいよね……。弟のオレも申し訳ないと思っちゃうよ」
「………」
女の子の名前は知らない。興味もない。同学年だったかもしれないけど、どうでもいい。オレの『金づるちゃん』って仮名にしておこうか。
「オレが代わりにつきあってあげるって言いたいところだけど、キミのこともよく知らない。だけど、今日の『嫌な思い出』を忘れさせてあげることはできる」
「……本当に?」
「うん! 1000円でね」
「1000円!?」
「まぁまぁ、ものは試しってね♪ ちょっとこっちに来て」
オレは金づるちゃんを化学室へ連れ込むと、アルコールランプに火を灯す。暗幕で光を遮断すると、彼女をイスに座らせる。
「オレの目、じっと見てくれる?」
彼女の顔に近づき、見つめる。ちょっと頬が赤いのは、火のせいかそれとも正月にオレが似ているからか。どっちでも知ったこっちゃない。今から彼女の『想い』はあっさりと消える。
パチン、と指を鳴らすと、金づるちゃんは目を閉じて前に倒れる。それを軽く支えると、イスにもたれさせた。
よし、今日も完璧だ。
「いい? キミが正月のことを好きだったのは気のせい。告白したのも起きたら全部忘れてる。3、2、1!」
もう一回指を鳴らしたら、彼女はぱっちりと目を覚ました。
「え? ええ!? あれ、私なんでこんなところに……。なんかすごく嫌な気分だったんだけど」
「うん。その『嫌な気持ち』を忘れさせてほしいってオレのもとに来たんだよ。すっきりしたでしょ?」
「それはそうなんだけど……」
「はい、お代は1000円……いや、今回は特別500円でおっけー!」
金づるちゃんは首を傾げながらも、気分はすっきりしたらしく、意味も分からないままオレに500円払って化学室を出て行った。
「……寿。またお前、そんな商売してるのか」
金づるちゃんと入れ替わりに化学室へ入ってきたのは、双子の兄である正月だ。オレたちは1月1日生まれ。だから『正月』に『寿』。めでたい名前だ。
「今回の子はかかりやすかったから、半額にしてあげちゃった。いや~すごいよね! 浄見さんから教わった催眠術って」
浮かれるオレとは対照的に、正月は困ったような顔をする。同じ顔の人間にこういうのはナルシストかもしれないけど、こいつの顔は整っている。さらに空手部のエースときたもんだ。ちょっとオレよりは短い髪をかきながら、オレには無用な苦言を呈する。
「催眠術っていうか、あの人のは心理学とか色んなものを混ぜた、完全なオリジナルだろ? 変な力で商売するのはやめた方がいいんじゃないか?」
「いいじゃん! どうせ解き方はわからないんだし、『嫌な思い出』だけを消すようにすれば、みんなもハッピー! オレも金が入ってハッピー!!」
「はぁ……」
わざとらしくため息をつくと、正月は部屋を出る。その前にオレは声をかけた。
「あー、部活終わったら青葉さんところな!」
「はいはい」
化学室の扉が締められる。アルコールランプの火を消すと、カーテンを開けた。